山形は逸材の宝庫。「庄内のアナコンダ」は地元代表の巨漢スラッガー (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 3回戦の山形東戦では、レフトフライ2つに倒れた後の3打席目にライトへいい角度の打球を上げたが、伸びを欠いてライトフライに。バックネット裏にいた複数球団のスカウト陣は、この打席を見届けて一斉に帰路についた。

「頭ではいい打球を打てるイメージがあるのですが、現実は打てていなくて。バッティングが少し早まっている気がします。本当ならためて、ためて、自分のスイングでスパッと振るつもりが、結果が出ていないから余計な力が入って、我慢しきれていないのかなと」

 プロ入りも視野に入れて今夏に臨んだはずだったが、結果が伴わない状況に鈴木監督も「このままでは無理ですよね」と現実を見据える。しかし、続けてこんな期待を口にした。

「でも、ここから(準々決勝以降)は彼が打たないと勝てません。苦しみのなかで、いかに打てるか。振り回したい欲を抑えて、センター前に向かって謙虚なバッティングができるか。スカウトのみなさんには、いい時の彼を見てほしいですね。打者としてのタイプは違いますが、飛距離なら石垣(雅海/中日)より海斗のほうが上ですから」

 内面的にも成長している。鈴木監督は「庄内の子は真面目で、おとなしくて大舞台に弱い。でも関西の子の『ここぞ』の場面でガッと力を入れられる要領のよさを学んでいます」と語る。伊藤も関西や関東からも選手が集まる酒田南で大きな刺激を受けたという。

「遠くから来ている子は覚悟を決めて山形に来ているので、野球への思いは県内生より強いと感じます。(メンバー発表の際に)ベンチに入れなかった子が泣いている姿を見て、声をかけようと思ったのですが、結局かけられませんでした。その思いを背負って戦っているつもりです」

 ところで、東北で育った選手は留学してきた関西出身者の関西弁が伝染してしまうとよく聞く。伊藤にもそんな現象が起きているかを聞くと、「それはないです」と断言して、こう続けた。

「地元をレペゼン(代表)しているので、庄内弁をこよなく愛しています」

 堂々と言い切った姿に、思わず笑いがこみ上げてきた。この大物感はいったいどこからくるのだろうか。

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