佐々木朗希が163キロよりも目指すべきもの。「急がば回れ」の夏 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kyodo News

 初戦(2回戦)の遠野緑峰戦では先発して2イニングを投げ、最速147キロ。その日の力加減は「6割ぐらい」とコメントしている。

 中1日あけての一戸戦は6イニングを投げて無安打、13奪三振、1四球、無失点。3回まで奪った7三振はすべて150キロ前後のストレートで、最速155キロを計測する圧巻の内容。三振してベンチに帰ってきた一戸の打者が笑顔で「ハンパねぇ~!」と叫んでいたのが印象的だった。

 試合後に報道陣から力加減を聞かれた佐々木は「わからないです」と答えつつも、「少し球速というか、ギアを上げました」と力を込めたことを認めている。

 結果的にはノーヒット・ノーランの6回コールド。圧勝に見えるが、一戸も侮れないチームだった。打者のスイングは鋭く、捕手の及川も「一戸の選手とは中学時代から対戦していて、力があるのはわかっていました」と語っている。おそらく佐々木は、本気に近い力で抑えにかかったのだろう。

 春から見比べて強く感じるのは、佐々木の「ギアチェンジ」がだいぶこなれてきたことである。春の公式戦はあからさまに強度を落として投げていたのが、今夏は打者や場面に応じて微妙に強度を投げ分けられるようになった。及川も「かなり強弱をつけるのがうまくなりましたし、本人もそう思っていると思います」と証言する。

 一方で気になることもある。投手は繊細な生き物だ。ちょっとした力加減や環境の変化で、感覚が狂ってしまうこともある。とくに強度を調節することは、簡単なことではない。

 國保監督の大学時代の恩師である筑波大の川村卓監督も「強度を調節することは、ピッチャーにとって一番難しいことかもしれません」と語っていたことがある。幼少期から力をセーブする習慣ができている投手ならまだしも、佐々木はつい最近まで常に全力に近い強度で投げていた剛腕である。

 國保監督に「強弱をつけて投げることは難しさもあると思いますが、フォームや感覚を崩さないために指導していることはありますか?」と聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

メカニックの部分は、あまり関わらないようにしています。自分の感覚を大事にさせているので」

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