神前俊彦63歳。高校野球に憑りつかれた男が目指す2度目の甲子園 (4ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Tanigami Shiro

 ただ戦力的には、やはり私学。春日丘時代に比べれば、身体能力という点でワンランク上を感じさせる選手が一定数いる。なにより時間だ。理事長、校長との面談で「練習時間はどれくらい必要ですか」と聞かれ、「3時間あれば十分です」と答えていたが、平日は4時間。春日丘時代を思えば、練習時間は十分ある。

 こうした状況のなか、生徒への指導は「公立が私学に勝つにはな......」のひと言はなくなったが、肝は変わらない。

「勝つにはどうしたらええかと言えば、まずは勝てると思うこと。勝負は、勝てると思えば勝てるし、負けると思えば負けてしまう。思ったら、次は言葉にすること。『甲子園に行けたらいい』ではなく、『絶対に甲子園に行きます』と。生徒にそこまで思わせるためには、指導者が勝つことを信じて疑わないこと。これがないと始まらない」

 春日丘時代もバット5本、破れかけのボール10数個を使い野球ごっこを楽しんでいた子どもたちに「やればできる」と信じ込ませたことが奇跡への一歩だった。

 実戦指導のなかでは「無駄なことはしない」「できることをやる」が、神前のこだわりの2本柱である。

「負けるときは、みんな自分から負けにいくんです。フォアボール、エラー、ミス......これらがなくただ打たれるだけなら5点、投手が低めにボールを集められたら3点に抑えられる。よく選手には『入場資格をクリアしなさい』と言うけど、フォアボール、エラー、走塁ミス、バントミス、サインミス、盗塁を許す。この6つをしている間はいつまでたっても甲子園から招待状は届かない。逆にそこをクリアできたら"何が起きるの?"というゲームになるんですよ」

 37年前の夏も、華奢なエースが丹念に低めを突き、捕手の肩は強く、バックは堅実な守備で盛り上げた。攻撃でも、バントを確実に決め、全力疾走を徹底。やるべきことをやった先に、PL戦では本塁打2本という想定外のことも起きた。

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