まさかの名将退任→元プロ監督就任。如水館は最悪の雰囲気から甦った (5ページ目)

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota
  • photo by Inoue Kota

「『広陵、広島新庄に勝つなら5-3のスコア、このチームにはそれができる力がある』と伝えました。分析と言ったら大げさですが、練習試合の戦いを見て、強豪相手にも5点を取る力、継投で3失点にまとめるだけの力はあると感じたんです」

 大久保の予想は的中した。広陵戦、広島新庄戦とも5-3でクロスゲームを競り勝った。広陵戦の試合終了直後、ベンチの片づけで待機していた控え部員が「すげえ。本当に5-3だ......」とつぶやくなど、大久保の"予言"が選手たちを惹きつけた。山下は言う。

「大会前は正直、チームはまとまりきっていませんでした。それでも『とにかくやるしかない』と大会に入って、大久保監督が言った通りのスコアで広陵と新庄に勝てた。すごく自信になりましたし、大会のなかでチームがまとまってきた気がしました」

 春季県大会は準優勝。続いて出場した中国大会でも1勝を挙げた。大久保の就任から約3カ月、一歩一歩チームは新たな結束を生んでいる。夏を前に、大久保は選手たちにある言葉を授けたという。

「『思考は具現化する』という言葉を選手たちに送りました。高校時代、甲子園をイメージし続けたら、実際に出場することができた。この春も『5-3で勝つ』と言い続けたことで、実際にそのスコアで勝てた。最後は選手たちが『甲子園に行く、甲子園で勝つ』とイメージできたら、この夏も......と思っています」

 そしてこう続けた。

「このチームは本当に力があります。毎日、山下を見ていて、彼が甲子園でマスクを被る姿が頭に浮かび上がってくるんです。リリーフ投手の橘高(隼)の速球に観客が湧いたり、中軸でレフトの箱崎(蓮)の意外な俊足に『えっ、速いじゃん!』と驚いたりね(笑)。それが鮮明に浮かぶ、そう思わせてくれる実力があるんです」

「勝負の世代」と言われた山下たちにとっての最後の夏、そして大久保が広島で戦う初めての夏。新指揮官のイメージを現実のものにする戦いが、いよいよ始まる。

(文中敬称略)

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