まさかの名将退任→元プロ監督就任。
如水館は最悪の雰囲気から甦った

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota
  • photo by Inoue Kota

 迫田前監督が退任する3月末まで、熱のこもった練習が続いた。今までと変わらない日々が続いたことで、余計に指揮官との別れが非現実にも感じられた。

 4月1日。如水館の選手たちに大久保と新たに就任するコーチたち指導者陣が発表された。就任当日は練習試合が組まれており、大久保はバックネット裏の監督室から戦況を見守った。当日の心境を大久保が振り返る。

「覚えているのは、『よく打つチームだなあ』と思ったこと。就任からしばらくは1日がめちゃくちゃ長く感じましたね。オイスカのときの倍ぐらいの長さじゃないかって」

 こうして新体制がスタートしたが、監督交代への憤りから練習に参加しない選手が現れるなど、チームはバラバラだった。

 厳しい現実を突きつけられた大久保だったが、選手たちの気持ちに"共感"もしていた。大久保が言う。

「私が高校3年の時も、監督交代がありました。最後の夏を前に、恩師と別れるつらさは自分も経験しています。それに如水館の選手たちの場合は、公立校の人事異動と違って、予期せぬ形で別れなければならなくなった。その悲しみは相当なものだと思いました」

 悲しみが想像できたが、選手たちを尊重するからこそ、安易に同調することはしなかった。気持ちに整理がつくタイミングを待つことにしたが、刻一刻と春季大会の開幕も近づいている。就任から約2週間が経過したころ、主将の山下と2人の副主将を監督室に呼び、話合いを行なった。大久保が振り返る。

「簡単にではありますが、自分が如水館に来た経緯を山下たちに話しました。私自身が決めたことではありますが、自分も教え子たちを静岡に残して広島に来た。お互い思うところ、悲しみを抱えている。まずは一緒に甲子園を目指して戦おうと伝えました」

 今ひとつチームがまとまらない状況に加えて"クジ運"にも恵まれなかった。春季大会の初戦(2回戦)で広陵、初戦突破直後の3回戦で広島新庄と対戦する可能性が高いブロックに入ったのだ。大久保が「伝えられたとき、ギャグかと思った」と振り返る"死のブロック"結果的にチームを好転させた。大久保が言う。

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