投手転向2年で最速147キロ。知徳の大型右腕は「姿即心」精神で甲子園を目指す (2ページ目)

  • 高木遊●文 text by Takagi Yu
  • photo by Takagi Yu

 現在は身長187センチ、体重90キロの堂々とした体躯の栗田だが、入学時は182センチ、70キロの細身だった。それでも「素直だし、肩、ひじが柔らかい」と素質を見込まれ、練習試合で多くの登板機会に恵まれ、投手としての感覚をつかんでいった。

 ただ、公式戦は佐藤翔(現・駒沢大)ら上級生に複数の好投手がいたために登板は限られ、エースとなったのは2年秋からだ。また、この頃に入寮を決めた。

 それまでは富士市の実家から通っていたが、通学に片道1時間半ほどかかっていた。それが入寮したことで時間にゆとりが生まれ、食事をより多く摂るようになり、体重はどんどん増えていった。

 冬場には、大きくなっていく体をうまく使いこなすために浜辺や山道を走り込み、下半身を強化。同時にボールにも威力が増してきた。厳しい練習を繰り返す日々だったが、栗田は「野球を辞めたいと思ったことは一度もありません」と言うように、向上心を持って貪欲に取り組んだ。

 こうして、ひと冬を越えた栗田の球は「ミットに突き刺さるようになりました」と、バッテリーを組む中川颯太も舌を巻く。また変化球も、縦に割れるスライダーとスプリットは三振を奪えるボールだ。

 NPB球団のスカウトも視察に訪れるようになり、当然、栗田もプロ志望だ。

 それだけにこの夏は、チームはもちろんだが、栗田にとっても大事な夏になる。だが栗田は、落ち着いた表情で次のように語る。

「僕たちは甲子園で勝つこと、そして"愛されて勝つ"ということを掲げているので、感謝、思いやり、素直さを持って戦います」

 先日行なわれた練習試合では打ち込まれ、初鹿監督から降板を提案されたが涙ながらに拒否。以降は無失点に抑えるなど、精神面でのたくましさも出てきた。

 取材を終える頃には、雨が降り始めていた。帰路に着こうとすると、そっと傘を差し出す栗田がいた。謙虚な気持ちで高みを目指し続ける栗田が、この夏どんな躍動を見せてくれるのか、楽しみでならない。

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