佐々木朗希だけじゃない。岩手の公立校の強肩強打捕手にプロも注目 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 しかし、石橋監督はこんな不満を口にする。

「県立高校はベスト8に入ったら一息ついちゃうんだ。本人も親も『頑張ったなぁ』という雰囲気になっちゃう。本当なら、『こっからだぞ!』となんなきゃいけないのにね」

 石橋監督の長い指導者人生のなかでも、今年のチームは実力がある。3番・捕手の石塚綜一郎は高校通算38本塁打(7月5日現在)をマークする注目選手。ほかにも主将の佐々木駿介は身長180センチ、体重100キロの巨体から破壊力満点の強い打球を放ち、1番から9番まで長打が飛び出る強打線である。

「打線は甲子園に出た秋田工よりはるかに上ですよ。でも『甲子園行けるよ?』と言っても、『そうっすか』としか返ってこないんだよ。のれんに腕押しというのかね」

 愚痴をこぼしつつも石橋監督の表情が曇らないのは、生来の明るさだけでなくチームへの自信の裏返しでもあるだろう。なかでも石塚は、プロスカウトも視察に訪れる好素材である。

 石橋監督は「(石塚は)もともとは自分には縁のない選手だと思っていた」と語る。石橋監督が高校野球の現場を離れていた時期、同級生が監督を務める秋田南リトルシニアの練習を見る機会があった。そこで目に止まったのが石塚である。

「中学の頃からよく飛ばしていましたよ。ホームランもでかいのを打っていたしね。学校の成績もいいし、性格も真面目で優等生ですよ」

 石塚本人も県外の強豪私学に進む希望を持っていたが、一方でこんな不安もあった。

「ウチは母子家庭ですし、親に負担はかけたくないという思いがありました。母にはこれまでノビノビやらせてもらってきて、何をやるにも僕の思いを尊重してくれていたんですけど、高校は私学ではなく公立がいいかなと」

 そこで進路先に浮上したのが、石橋監督の赴任先である黒沢尻工だった。寮生活にはなるが、頻繁に組まれる秋田の高校との練習試合後は自宅に泊まって遠征代を節約できた。冬場にはほかの部員とともに宅配業者のアルバイトで沖縄遠征の資金を工面した。

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