沖水21年ぶり甲子園へ。指揮官が断言「打倒・興南への秘策はある」 (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 聞けば人数が少なくて整備が大変だからとメイングラウンドは使わず、サブグラウンドでこぢんまりと練習をしていたのだという。マシンもL字のネットもない。キャッチャー防具は1セットだけで、キャッチャーミットは軟式用。かつての強豪が甲子園から遠ざかること20年近く、栽監督が急逝してから約10年が経っていた。上原がそんな現実を目の当たりにしたのは、監督として糸満を春の県大会で優勝へ導き、選手たちの手で歓喜の胴上げされた、その翌日のことだ。

「中部商で監督をやって、甲子園に行かせてもらって、母校(糸満)の監督としても甲子園へ出るという夢を叶えて、『さあ、次は』と考えたとき、なぜ自分は高校野球の指導者をしているんだろうという原点に立ち返ったんです。僕も定年間近ですし、最後の務めはとなったら、これはもう、お世話になった栽先生に対する恩返ししかありません。

 栽先生のところへ挨拶に出向いたとき、『そこで見ておけ』と言われなかったら今の僕はないんです。じゃあ、天国にいる栽先生にどうやって恩返しをすればいいのかと考えたら、沖縄水産を強くすることしかないと思いました。自分にできるかどうかはわかりませんが、あの沖水のユニフォームを着た選手たちを、もう一度、甲子園でプレーさせることが、何よりも天国の栽先生に喜んでもらえるんじゃないかなと......

 沖縄水産の監督となって3年目の2018年秋、上原は県大会で興南を破ってチームを優勝へ導いた。地元は『古豪復活』と大騒ぎだったが、九州大会は初戦で敗れ、センバツへの出場は成らなかった。

 それでも春も県大会で準優勝の沖縄水産は、この夏、本命の興南を倒す一番手の対抗馬に挙げられている。上原が久米島から連れてきたエースの國吉吹(いぶき)は去年の秋、沖縄尚学を相手にノーヒット・ノーランを達成した、プロも注目する右腕だ。ともに勝ち進めば、興南とは決勝でぶつかることになる。

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