高校野球の「ラストゲーム」。補欠でもグラウンドで引退→花道を飾れる (2ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text & photo by Motonaga Tomohiro

◆ヒット1本で喜び、ホームランで泣く

 JR立川駅から2駅の東中神駅に降りたとき、500メートルほど離れたネッツ多摩昭島スタジアムから大きな声援が聞こえてきた。

 6月20日、千葉ロッテマリーンズの井口資仁監督の母校である国学院久我山と、甲子園初出場を目指す実践学園との練習試合が行なわれた。スタンドには、揃いのTシャツを着た両校の部員、父母や若いOBの姿が見える。

練習試合を行なった国学院久我山と実践学園の選手たち練習試合を行なった国学院久我山と実践学園の選手たち この試合は、最後の夏の大会でベンチ入りすることが難しい選手たちによる引退試合として開催された。ヒットが1本出るたびにベンチから選手から飛び出してきて、ガッツポーズを送る。ひとりのランナーが出るだけで大騒ぎだ。スタンドに陣取る下級生の野球部員は本番と同じように息の合った応援を見せている。     

 最後の夏までに残された時間は2週間と少し。組み合わせも決まり、練習時間は試合に出る選手のために使われる。ベンチ入りが難しい3年生部員はレギュラーのサポートに回らざるをえない。彼らにとってこの試合が高校球児としての「ラストゲーム」になるだけに、ひとつのプレーに対してダイレクトに感情をぶつけていく。仲間がヒットを打てば両手を上げて喜び、ひとつのミスに対して全身で悔しさを表した。

 3回表、実践学園のホームランが飛び出した瞬間、ベンチから出た選手たちがホームベース付近で抱き合い、スタンドに陣取る部員はメガホンを叩いて歓声を上げた。

 内野フライがヒットになる珍プレーが飛び出したり、激しい当たりをナイスキャッチしたり、なんでもないゴロを悪送球したり......。そのたびに、ベンチから厳しい声や励ましの言葉が飛んだ。試合は序盤から実践学園が大量リードを奪い、10対3で勝利した(2時間制のため、7回で打ち切り)。しかし、試合結果にも内容にもたいした意味はない。大切なのは、「引退の瞬間」をみんなで共有すること。試合後、選手たちは涙を流しながら抱き合った。

 この日、メンバー外の3年生も父母もみんな、「グラウンドで引退の瞬間を迎える幸せ」を感じていたはずだ。集合写真の彼らの表情がそれを物語っている。

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