高校野球の「ラストゲーム」。
補欠でもグラウンドで引退→花道を飾れる

  • 元永知宏●取材・文 text & photo by Motonaga Tomohiro

 若い世代の野球離れが深刻な問題になっている昨今だが、高校野球の甲子園常連校はその限りではない。2018年夏の甲子園に出場した高校の部員数の上位を見てほしい。

花咲徳栄(北埼玉)163人
佐久長聖(長野)160人
益田東(島根)138人
鳥取城北(鳥取)135人
広陵(広島)130人

 選手たちは、それまでの自分の実績や実力と野球部のレベルの高さを比較検討したうえで、「甲子園に出たい」という思いを胸に強豪校に入っていく。しかし、地方大会のベンチ入りメンバーは20名、甲子園でユニフォームを着ることができるのは18名。100人もの部員を抱える野球部なら、8割以上が補欠ということになる。

 選手が甲子園を目指して活動できるのは3年生の夏までで、最後の夏の地方大会で敗れれば「引退」となる。わずか2年4カ月(夏の甲子園に出ても2年5カ月)しかない。ライバルとの競争に敗れて練習の機会を奪われたり、ケガに苦しんだり、チームメイトや指導者との人間関係に悩んだり......。いつのまにか、心が野球から離れる選手も少なからずいる。

 春のセンバツで2度の優勝、甲子園で通算32勝を挙げている広陵(広島)の中井哲之監督は『補欠の力 広陵OBはなぜ卒業後に成長するのか?』(ぴあ)という書籍のなかでこう語っている。

「『ポジションは補欠です。3年間野球をやりました』と胸を張れるのがかっこいいと思います。そのことを評価してくれる大人を大事にせえと言っています。『おまえはレギュラーじゃなかったんか......』と言う人はそれだけのもんですから」

 春夏合わせて46回の甲子園出場を誇る名門校で、ユニフォームを着て聖地の土を踏むことができる選手は限られている。

「でも、試合に出ることだけが甲子園じゃないと僕は思っています。いろいろなところに甲子園がある。バスに揺られる時間も、勝ち上がったときに泊めていただく天理教の宿舎にも。プレーすることだけじゃなくて、甲子園に出るから経験できることがたくさんあります。あとで『アルプススタンドは暑かった』『浜風が強かった』と感じるのも甲子園なんです」(中井監督) 

 しかし、実際に選手をまとめるのは難しい。甲子園常連校に在籍していたときには補欠、その後大学を経てプロ野球に進んだある選手は言う。

「不思議なもので、3年生の仲がいい学年は強い。レギュラーと控え選手の間に溝があるときは勝てない」

 試合に出られない選手の心を最後までチームに結び付けること──これが、大所帯の野球部にとって大きなテーマだ。

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