元大阪桐蔭の主将ふたりが実感。早大・小宮山監督のマネジメントの極意 (3ページ目)

  • 清水岳志●文 text by Shimizu Takeshi
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 3月の沖縄キャンプでは全体練習のあと、居残りで徳武定祐(とくたけ・さだゆき)コーチに付き合ってもらいティーバッティングを延々と繰り返した。

「かなり悩みました。シートバッティングやオープン戦など、実戦で打てなくて......昼飯が喉を通らないことも多かった。落ち込んだら士気が下がりますし、メンバーに残るためにはノックから声を出さないと。調子が悪い時ほど、選手の言動を監督は見ていると思ったので、必死にやりました」

 小宮山監督もそんな吉澤の努力を見ていた。

「スタメンは自分のはずなのに、ベンチを温めるという我慢を強いられた。オープン戦でまったく結果が出ない。バットを振ればヒントを見つけて解決するものだと思っていたんですけど、そう単純なものではなかった。自分を見失って、スイングもおかしくなって......涙を流しながらバットを振っていました。自分自身が情けなかったのでしょう。オープン戦の最後の最後で、バットを折りながらセンター前に運んで......試合は負けたけど、吉澤のヒットでダグアウトのみんなが拍手喝采だった」

 うしろの軸が前のめりになるのは自分の感覚でしかわからない。ある時、テレビ中継で「調子の悪いバッターは体が突っ込んで、軸で打てていない」と解説者が言っているのを聞いて、吉澤はハッとなった。練習でそこを意識すると、今までとボールの見え方が違った。秋に向けて、ヒントはつかんだようだ。

 結果的に吉澤からレギュラーを奪った中川だが、彼も苦しいシーズンとなった。全試合全イニング出場を果たすなど、1年の春としては稀有な数字だ。しかし、放ったヒットはわずか6本で打点は1。打率.128とチームの勝利に貢献したとは言い難い。それでも小宮山監督は中川を外すことはなかった。

 中川が大学初のシーズンを振り返る。

「オープン戦ではヒットが出ていました。開幕戦の試合前バッティングでも調子がよかったのに、試合では5の0でした。本番の真剣勝負でノーヒット。そこでなにか、気持ちも含めてブレが生じてしまったのかなと思います。

 監督も我慢して使っていただいたと思うのですが、結果を残せずに申し訳ない気持ちです。打てない時期は悩みました。でも調子が悪くて投げやりになってしまったら、それ以上の進歩はない。打てなくてもスタメンから外されても、めげずにやろうと決めていました」

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