センバツ優勝の東邦に完投勝利。中部大一の謎の剛腕は控えめ男子だった (2ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text&photo by Kikuchi Takahiro

 東邦戦は123球を投げ抜き、連投となった西尾東戦では57球。磯貝は苦笑しながら、疲労を口にした。

 磯貝の高校野球生活は、大半がケガとの戦いに占められていた。本人がそのケガ遍歴を明かしてくれた。

「1年生の夏休みに左足の足首を手術して、1年間ほとんど(プレーを)やっていません。あとは去年の冬にヒジを痛めたり......。まともにプレーできるようになったのは、今年の春からです」

 語り口はいたって落ち着いている。磯貝は「見た目が怖いってよく言われるんです」と自嘲気味に笑うが、実際は穏健派だという。高校進学の際に別の高校も選択肢に挙がったが、「ヤンキー学校という噂を聞いて......」と進学を断念している。中部大一の佐藤吉哉監督は「『気は優しくて力持ち』というタイプですよ」と磯貝を評する。

「言われたことをキチッとやりますし、控えめで目立とうとしない子です。練習でも『投げたいヤツいるか?』と聞いても、磯貝は人に譲ろうとする。マウンドに上がった時だけどっしりしているんですよ」

 故障がちで経験不足の磯貝が、センバツ優勝校を抑え込めたのはなぜか。当然、東邦にも達成感ゆえのバーンアウト(燃え尽き)や、エースが登板しなかったため試合運びのリズムが悪かったという要因もあっただろう。とはいえ、石川昂弥(たかや)、熊田任洋(とうよう)らが並ぶ強打線は生半可な力では抑え込めるはずがない。

 佐藤監督は東邦戦の試合前に、磯貝にある指令を出していた。

「東邦さんに勝てるとは思っていなかったんですが、負けても夏に課題をつくるために『ホームランを何本打たれてもいいから、インコースを突け』と指示しました。そうしたら、東邦の打線でも磯貝のボールに詰まっていましたね」

 のらりくらりとした投球に終始した西尾東戦でも、要所では打者の内角ギリギリに140キロに達するストレートを決めていた。磯貝の最大の長所は、決め球をきっちりとコースに投げ込めることだろう。磯貝は言う。

「キャッチャーのミットをずっと見ていれば、そこにいくような気がするんです。内角はバッターが打ちにくい球だと思いますし、『デッドボールでもいい』というつもりで投げています。間違えれば真ん中に入って、打たれてしまうので」

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