プロ注目の強打者、東邦・石川昂弥。
「こだわりがない」投手でも覚醒中

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshihiro

「ピッチャーっぽさ」を回避していくうちに、皮肉にもより「ピッチャーっぽく」なってしまう。もちろん、石川の探究心と努力があってのこと。だが、東邦のチームメイトからすれば、自分の無力さを教わる残酷な存在に違いない。

 今春センバツ、石川はここまで4試合すべてに先発登板し、31回を投げて防御率1.16と安定感抜群の成績を残している。その反面、打撃面では広陵(広島)との2回戦で高校通算43号本塁打を放ったものの、準々決勝以降は無安打。4試合で16打数3安打、打率.188にとどまっている。富岡西(徳島)とのセンバツ初戦では最終打席で甲子園初安打を放ち、「本当にやっと......という感じです」と苦笑したのが印象的だった。

 東邦の森田監督に、石川は登板時に打率が落ちることについて質問してみたことがある。意外にも、森田監督は「それは聞いたことがないです」と答えた。

 これは勝手な推測でしかないが、森田監督が知らないはずがないだろう。それでも、あえて「知らない」ということにしているのは、この壁を石川に突き破ってほしいという親心からではないか。森田監督はこうも付け加えている。

「藤嶋(健人/中日)もそうでしたが、石川も(エースと主軸打者の両立を)やれる人間だと思っています。それぞれタイプは違いますが、石川はおおらかで責任感があって、辛抱強く愚痴も言わない。主将になったことで精神的なリーダーシップを取れるようにもなりました。人間的に大きく成長してほしいと思っています」

 石川には、間違いなく打者としての未来が広がっていることだろう。高校野球でさまざまなものを一身に背負い、戦った経験はいつか石川の大きな支えになるように思えてならない。

 そして春に残された最後の1試合。石川昂弥が森田監督の期待通りに人間的にひと回り大きくなった姿を見せられれば、東邦の平成最後の悲願は成就するに違いない。

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