プロ注目の強打者、東邦・石川昂弥。
「こだわりがない」投手でも覚醒中

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshihiro

 昨秋の石川はエースとして公式戦432/3に投げた一方で、打者としては打率.474 、7本塁打と申し分ない数字を残した。だが、一部でまことしやかにささやかれていたのは、「石川は投手として出場時に打撃成績が落ちる」ということだった。

 本人は「意識はしません」と強く言い張るものの、自覚はあるのだろう。こんなことも漏らしていた。

「ピッチャーをやっていても、打席で集中できないことはないと思っています。でも、ピッチャーはどこかで神経をたくさんつかっているので、無意識のうちに打席で集中力が落ちているのかもしれません」

 昨年の秋から今年の春にかけて、石川は投手としてのトレーニングはほとんどしていない。基本的に野手の練習メニューをこなし、打撃練習の合間に投球練習を70球ほどこなすだけだった。

 もちろん、チーム内には石川の負担を減らすべく、また自身の投手としての誇りをかけて投手メニューに励んだ者もいる。だが、ひと冬を越して東邦の森田泰弘監督が出した結論は「試合で投げられるピッチャーはいない」。つまり、石川を投打の大黒柱として起用するということだった。

 速球派サイドスローの奥田優太郎に、本格派左腕の植田結喜(ゆうき)のようなプロスカウトも注視する好素材もいる。だが、東邦は平成最初のセンバツ覇者であり、平成最後のセンバツ覇者を狙う名門である。エースに求められるハードルは当然高くなる。そして、それをあっけなく越えてしまったのが石川だった。

 昨秋、投手・石川の投球フォームは定まらなかった。愛知県大会まではサイドスローに近い腕の振りで、東海大会以降はオーバースローに変わった。その理由がまた、石川の才気を示すものだった。

「上から投げていると、上半身と下半身が連動できなかったので横から投げていたんです。最初は『野手投げ』という感じだったのが、だんだん木下(達生)コーチから『ピッチャーっぽくなってきたな』と言われるようになって。でも、ピッチャーっぽくなるにつれて、ヒジへの負担も大きくなってきたんです。それでまた上投げに戻したら、今度は体に合いました。ボールに角度がつくようになって、球速も上がって回転もよくなりました」

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