エースを際立たす「最遅」効果。習志野の17番は緩急に活路を見出す (2ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Kyodo News

 2014年4月から秀岳館(熊本)の監督に就任し、4シーズン連続で甲子園に出場。そのうち3度ベスト4進出を果たした鍛治舎巧監督(現・県立岐阜商業)は、投手にこう指導しているという。

「ピッチャーには、『マックスは130キロ台でもいいから、90キロのボールを作れ』と言っています。40キロの差があれば打ち取れるから。マックスを伸ばす練習をしながら、緩急の差を大きくするように」

 また、昨夏の甲子園でベスト4に進出した済美(愛媛)の中矢太監督がエースに求めるのは、強いボールと三振を取ることができる変化球だ。

「ひとつの基準としては140キロを超えるストレート。ノーアウト満塁のピンチになったとき、三振を取れるボール。このふたつがないと、大量失点をしてしまう可能性が高い」

 甲子園での勝利、さらには上位進出を狙う強豪校の監督はおそらく似たような考えだろう。だから、どの高校の投手も球速アップを狙って厳しいトレーニングを行なっている。一方で各校の打者は、140キロを超える速球を打ち崩そうとパワーをつけ、スイングスピードを上げようと打撃練習やウエイトトレーニングに励む。

 そんな高校野球で、ましてや甲子園の準々決勝で見せた岩沢のピッチングは嫌でも目立った。

 100キロ前後の岩沢のボールを打ち崩した市立和歌山打線がその後、最速145キロの飯塚のボールを打ちあぐねたのは、先発投手のボールが「効いた」からだろう。

 岩沢が言う。

「いい流れをつくって、あとの飯塚が投げやすいようにと考えました。リードを保ったまま、もう少し長く投げられればよかったのですが......いつも、相手が飯塚のボールを速く感じるようにと意識はしています」

 2試合連続でエースを途中から登板させた小林徹監督は、試合後に「ピッチャーの心理を考えれば、飯塚に先発させたほうがストレスはなかっただろうと思います。ただ、できるだけ岩沢に投げてもらって、飯塚の投球数を抑えたかった」とコメントした。

 さらに、エースの変化についてこう続けた。

「飯塚はまるで自分がマウンドにいるみたいに、(ベンチから)内野手に指示を出していましたし、バッターについてもよく見ていました。これまでにはなかったことですね」

 ベスト4に進んだ習志野が頂点に立つためには、あと2試合。再び岩沢が登板するかどうかはわからないが、対戦相手は90キロ台のボールを投げる岩沢対策も怠ることはできない。

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