43年前との奇妙な縁。智弁和歌山「名将」のバトンは受け継がれるか (3ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 懐かしい話をネット裏で聞きながら、話題は2019年の3月28日へと移っていった。あらためて、この偶然の一致について尋ねると、「43年経って同じ日というのは、縁というか、巡りあわせというか、なんかあるんやろうね」と。

 しかも新体制となって初めての甲子園で、チームを率いるのは中谷仁(39歳)。高嶋仁と中谷仁。読みは「ひとし」と「じん」で異なるが、これもなにかの縁を感じずにはいられない。

 中谷は智弁和歌山のOBで、1997年に初めて夏の甲子園で日本一に輝いた時の主将だ。現役時代から藤田前理事長から「将来は高嶋の後継者に」と目されていたのが中谷だった。

 中谷は97年のドラフトで阪神からドラフト1位指名を受けて入団。その後、楽天、巨人でプレーし、引退後はブルペン捕手としてチームを支えるなど、16年間プロの世界に身を投じていた。そして2017年春から正式にコーチとして母校に復帰し、昨年夏に高嶋からバトンを受けた。高嶋は言う。

「当然プレッシャーもあるやろうし、しばらくは周りからオレのことばかり聞かれて大変やろうけど、とにかく思い切り、思うようにやったらええ。それしか言うことはない」

 一方の中谷は監督就任以降、こう繰り返してきた。

「引き継いでいかなければいけないことはいくつもありますが、一番に思っているのは高嶋先生の勝ちへの執念。智弁和歌山として結果にこだわっていきたい」

 その言葉どおり、昨年秋の近畿大会では公式戦5連敗中だった大阪桐蔭を倒し、監督1年目にしてセンバツ出場を果たした。とはいえ、選手は4季連続出場となる黒川史陽、東妻純平、西川晋太郎を筆頭に甲子園経験者がズラリ。しかも昨年センバツでは準優勝を果たしている。チームとして「昨年の春以上の結果」を目標に掲げ、厳しい冬を乗り越えてきた。高嶋に現チームについて聞くと、こんな答えが返ってきた。

「とくに野手は経験者が多いし、力もそれなりに持っとる。投手陣がどこまで頑張るか。ただ、よくABCの評価とかをつけてやっていますが、僕のなかではBかなと思っています」

 無用な重圧をかけないように、あえて控えめな評価にも思えたが、大きな可能性を秘めていることは間違いない。

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