赤星憲広が吐き捨てた忌まわしい記憶「甲子園に行くんじゃなかった」 (2ページ目)

  • 菊地高弘●取材・文 photo by Kikuchi Takahiro 寺崎江月●協力 cooperation by Terasaki Egetsu

 その後、赤星の野球人生にこのミスが暗い影としてつきまとっていく。センバツ後から送球に不安を覚え始めたのだ。

「肩は強いほうだったので、投げることに関しては悩むことはなかったんです。でも甲子園の失敗を引きずるうちに、送球が不安になってしまった。イップスではないんですけど、大学、社会人、プロと、ずっとこの1球を引きずっていたような気がします」

 それでも、亜細亜大学2年の秋にポジションを外野に移してから、徐々に不安はやわらいでいったという。後に、プロ通算9年間で381盗塁をマークする「レッドスター」として君臨したことは、多くの野球ファンが知っているだろう。

 甲子園に人生を狂わされた赤星が、甲子園を本拠地とする阪神のスター選手となり、引退後も甲子園のテレビ番組の顔になるのだから人生はわからない。

 今、甲子園について"伝える"立場になった赤星は、呪縛から解き放たれたかのように晴れやかだ。我が庭として駆け回ってきた甲子園球場の特徴を聞くと、意外な裏話を教えてくれた。

「甲子園でなんでもないフライをポロッと落とす選手がいるじゃないですか。僕も現役時代に経験があるんですけど、これはボールが落ちてくるのが遅い時があるからなんです。

 甲子園の浜風は独特で、春と夏でも微妙に違うんです。たまに高いフライが上がると、上空に吹いている浜風のせいでボールがなかなか落ちてこない。これを知らずに捕ろうとすると、タイミングが合わなくてグラブの土手に当たって落としてしまうんです。甲子園のフライはつかみにいっちゃダメ。落ちてくるのを待っていないといけないんです」

 外野フェンス付近の打球の処理にもポイントがあるという。それは、フィールドとフェンスの境目に傾斜があるということだ。

「水はけをよくするためにフェンス際が少し低くなっているんです。だから、後ろの打球に下がりながらジャンプする時は、注意が必要。普通にジャンプするとフェンスに強くぶつかってしまうので、進行方向と逆方向に飛ぶくらいのイメージだとちょうどよくなります。たとえば跳び箱は、ロイター板を踏んで勢いよく前に跳ぼうとすると箱に激突してしまいますけど、後ろに跳ぶ意識だと高く跳べます。それと一緒ですよ」

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