米子東23年ぶり甲子園へ。情熱の指揮官が描いた古豪復活ストーリー (3ページ目)

  • 井上幸太●文・写真 text & photo by Inoue Kota

 安易に強豪校の模倣に走るのではなく、多種多様な分野から貪欲に知識を吸収した。練習メニューの充実だけでなく、選手たちのモチベーション向上にも工夫を凝らした。

「『これをやりなさい』という指示だけでは、指導者がいるときは一生懸命やっても、目を離した途端にやらないようになってしまいます。そうではなく、こちらが見ていないときにも自発的に練習に向かう選手にするには、『こんな選手になりたい』、『野球を通じてこんなことを実現したい』という"内発的動機づけ"が不可欠。そのために"目標設定"と"コーチング"が必要になってきます」

 コーチングや教育学者が提唱する目標達成メソッドについて紙本自身が学び、認定講師の資格も取得。現在は各選手が、長・中・短期の各段階別に目標を設定している。選手自身が記入する"目標達成シート"には、各自のやるべきことがびっしりと記入されている。

 プロ野球選手のコンディショニングも担当するトレーナーの意見を基に構成したトレーニング、ストレッチメニューに取り組むことで、強く、柔軟性のある体をつくる。その身体と"理想的"と呼ばれる投球、打撃動作への理解が合わさり、投げるボール、放たれる打球が変わってくる。目標設定とコーチングによって、自主性が育まれたことで、紙本が言わずとも選手たちは精力的に自主練習へと向かうようになっていった。

 方向性の定まった練習と、選手個々の高いモチベーション。チームの変化は、公式戦の結果として表れはじめる。

 監督就任翌年の2014年夏に初戦連敗をストップ。同年秋には10年ぶりの中国大会出場を果たした。2017年には、1991年以来となる夏の県大会決勝に勝ち進み、甲子園にあと一歩まで迫る。

 そして、昨年秋に23年ぶりの中国大会決勝進出。1996年春のセンバツ以来の甲子園出場を確実なものとした。紙本が進めてきた改革が、米子東の"新たな伝統"として根付いた証でもあるが、ここに至ったのは「監督として最初にかかわった最初の選手たち、とりわけ初めて2年半指導した世代の存在が大きい」と語る。

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