2019年ドラフト主役候補・奥川恭伸。
田中将大の成績を上回る凄さ

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 そして、奥川の投球をより優位にした要因のひとつに、広陵の宗山が「チェンジアップみたいな落ちる球」と感じた変化球にある。それは、北信越大会まではあまり投げていなかったフォークだった。広陵戦の試合後、奥川はこう語っている。

「いつもスライダーばかりになるんですけど、今日は全国大会で試すために多めに投げました。低めにしっかりと落ちたのでよかったです」

 120キロ台中盤のスライダー、130キロ台前半のフォーク、そして常時140148キロほどのストレート。高確率で三振を奪える3つの球種をコーナーにコントロールされれば、高校生に打ち崩せるわけがない。

 秋の明治神宮大会でここまでインパクトの強い投球を見せた投手は誰がいただろうか......と思い返してみて、行き当たったのは2005年秋に登場した駒大苫小牧(北海道)の田中将大(現ヤンキース)である。

 とくに準決勝の早稲田実(東京)戦では途中リリーフで登板し、5回2/3を投げて被安打2、奪三振13の無失点。150キロに迫るストレートとスライダーで打者をねじ伏せる姿は、さながら鬼神のようだった。

 翌2006年夏の甲子園決勝で再戦し、引き分け再試合を経て勝利している早稲田実の選手たちは、口々に「秋の田中は夏よりもすごかった」と証言している(3年夏の田中は胃腸炎の影響で本調子ではなかった)。

 奥川と田中の明治神宮大会での成績は次の通りだ。

田中 4試合/28回2/319安打/47三振/8四死球/防御率0.63

奥川 3試合/15回1/3/7安打/26三振/2四死球/防御率0.00

 イニング数は倍近く違うものの、ともにとてつもない数字である。なお、奪三振率は田中の14.10に対し、奥川は14.63とわずかに上回っている。

 これだけの投球ができるにもかかわらず、奥川には常に"謙虚オーラ"が漂っている。2018年夏の甲子園には奥川や創志学園の西を含め、多くの有望な2年生投手が出場していた。何人かの2年生投手に「大船渡(岩手)の佐々木朗希(ろうき)についてどう思うか?」と聞いてみたことがある。

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