2019年ドラフト主役候補・奥川恭伸。田中将大の成績を上回る凄さ (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 奥川はこの投球スタイルを吉田輝星(秋田・金足農→日本ハム1位)の投球からヒントを得たという。吉田が酷暑の夏を乗り切るために編み出した「ギアチェンジ投法」は、大いに話題になった。打者や状況に応じて力加減を変える投球スタイルのことだ。奥川は夏の甲子園が終わった後、侍ジャパンU-18代表に2年生で唯一選出され、吉田の投球を学んでいたのだ。

 だが、奥川が明治神宮大会で見せたギアチェンジ投法は、もしかしたら吉田をしのぐ次元にあったのかもしれない。吉田がギアを落として投げる際、あからさまに球威が落ちて安打がかさみ、結果的に球数が増える傾向があった。

 一方、奥川はギアが落ちてもスピンの効いたボールがコースに決まり、変化球の精度も極めて高かった。まるで社会人野球のベテランエースのように、力感なくスイスイと投げ進めていく。高校野球レベルではめったにお目にかかれない「大人の球質」だった。

 明治神宮大会では7回78球で終えた広陵戦に続き、準決勝の高松商(香川)戦では7回100球で被安打4、奪三振12、失点1(自責点0)、決勝の札幌大谷(北海道)戦は途中リリーフで1回1/319球、被安打0、奪三振3、無失点で封じている。

 もちろん打線のレベルが天と地ほども違い、気候もまったく違う夏と秋の大会結果では比較にならない。だが、条件の違いを差し引いても奥川の投球はずば抜けていた。

 この奥川の投球センスは、かほく市立宇ノ気中時代から備わっていた。奥川を擁した宇ノ気中は2016年夏の全国中学校軟式野球大会(全中)で全国制覇を果たしている。小学校時代から現在まで奥川とバッテリーを組む捕手の山瀬慎之助は言う。

「練習でダメでも試合になると抑える。そういう才能を持っているんだと思います。勝負どころではいつもボールが全然違いますから。キャッチャーとして『ピンチでこうあってほしいな』というピッチングをしてくれるんです。奥川が焦っているところや、いっぱいいっぱいなところは見たことがありません」

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