根尾、藤原も苦戦。大阪桐蔭を抑えた「小さなエース」の気になる進路 (3ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Kyodo News

ドラフト1位候補を抑えた投球術

 3回戦の高知商業(高知)に3-1で勝利した後、準々決勝の報徳学園(兵庫)戦は、サードの池内優一に先発マウンドを譲り、ライトで出場。2-1とリードした5回裏の途中からリリーフに立ちリードを守った。済美にとって14年ぶりのベスト4進出だった。

 準決勝の相手は優勝候補の大阪桐蔭。根尾、藤原などプロ注目選手たちを相手に、山口の投球が冴えた。

 左バッターのインコースをスライダーで厳しくえぐり、アウトコースにチェンジアップを落とした。5回表まで2-2の息詰まる投手戦。表情を変えずに強気で攻める山口の真骨頂だった。

「大阪桐蔭はイメージどおりの強さでした。バッターは3打席目には合わせてきましたが、それまではうまくタイミングを外せたかなと思います。すごいのはクリーンアップだけじゃない。上位も下位も全国でもトップクラスの、気が抜けないバッターばかりでした。クリーンアップを抑えて、少しほっとした部分はありましたね。大阪桐蔭との試合で、低めにボールを集めること、変化球の出し入れ、緩急の使い分けが大事だとあらためて感じました」

 山口は五番・根尾に2安打を許したものの、三番・中川卓也を4打席ノーヒットに抑え、四番・藤原にも1安打しか許さなかった。

 しかし、大阪桐蔭打線の力強さが済美の守備を狂わせた。5回のピンチではサードの池内が打球を処理できず、失点につながった。その池内が言う。

「大阪桐蔭の打者のスイングが速くて、一瞬、体が固まりました。そのせいで打球のバウンドをうまく合わせられませんでした」

 ショートで好守備を見せた中井雅也も、「大阪桐蔭の選手たちのスイングスピードはほかのチームとは全然違いました。初めて経験する速さでした」と振り返った。

 5回裏、山口は2アウト満塁から六番の石川瑞貴に打たれて失点し、2-5で敗れた。山口が甲子園で投げたのは5試合で607球。43イニングと3分の2を投げ、四死球はわずか10個だった。山口はコントロールと変化球のキレを武器に、全国の強豪校と渡り合ったのだ。

「中矢太監督には、大会前から『先発・完投でいくぞ』と言われていたので、その準備をしていました。体力的にも余裕でした。

 1年前に、自分がこんなふうに注目してもらえるとは思ってもいませんでした。春の大会が終わって、4月から7月、8月に成長できたかなと自分でも思います。成長を実感できたのは、夏前の練習試合で明徳義塾に勝てたとき。チームとしても、自分としても自信がつきました」

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