斬新なトレーニング理論から誕生。イチローも試してビックリのスパイク (2ページ目)

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota

 この初動負荷理論に基づいて開発された「ビモロシューズ」と呼ばれるシューズがある。シューズに冠された「ビモロ( BeMoLo®)」は、初動負荷理論の英字表記である「Beginning Movement Load Theory」に由来している。

選手からは「小山先生」の愛称で親しまれる小山裕史代表 photo by Inoue Kota選手からは「小山先生」の愛称で親しまれる小山裕史代表 photo by Inoue Kota 一見すると通常のランニングシューズと同様に見えるが、ソール(靴底)に最大の秘密が隠されている。

「ビモロバー」と名付けられた3本のバーがソールに配置され、歩行や走り込みの際に関節が正しい動きをするように誘導する。そうすることで、足裏が着地したときの衝撃を、加速の"推進力"に変換することができる。体が固い使用者が、履いた瞬間に前屈ができるようになり、衝撃を受けることも少なくない。

 ビモロシューズを履いての歩行や、軽いランニングを行なうことでも、脚の関節と筋肉の緊張を解消することが可能となり、「最小の初動負荷カムマシン」とも呼べるような一品に仕上がっている。発売後は、様々な競技の選手たちが練習やウォーミングアップで着用するなど、大きな反響を呼ぶ商品となった。

 このビモロシューズの機能性を野球へと還元した「ビモロスパイク」という野球用のスパイクシューズも存在する。2015年、マーリンズへと移籍したイチローが公式戦で使用し、「イチローの足元を支える秘密兵器」として各メディアで紹介されたスパイクだ。

 ソールに3本のビモロバーが搭載されている点はシューズと共通で、そのバーを中心に計13本の金具が配置されている。他社のスパイクとの大きな違いは、アーチ(土踏まず)の部分に金具が配置されていることと、親指部分の金具を最小限にしている点だ。この理由を小山氏が語る。

「親指は基本的に"ブレーキ"の役割を果たすものです。その親指に金具をたくさん付けてしまうと、体重移動や回転動作の妨げになってしまいます。ピッチャーが足を上げる際に、『親指、拇指球(ぼしきゅう)で立つ』のが正解と言われることが多くありますが、実際に親指に体重を乗せてしまうと、(投球時の体の開きを誘発する)"足首の折れ"に繋がってしまいます」

 考え抜かれた金具の配置で、「骨盤が立った」状態を無理なく作り出し、投打のパフォーマンス向上に繋げる。ビモロバーが生み出す推進力で走塁のスピードアップ、守備範囲の拡大も見込める。そんなビモロスパイクが初めて公の場に登場したのが、2013年。長年、オフのトレーニングでワールドウィングを訪れていた山本昌氏(元中日)が試合で使用したのだ。当時を小山氏が振り返る。

「それまでにも『野球用スパイクを作ろう』という構想がありましたし、ビモロシューズを愛用してくれていた各選手や現場からも要望は挙がっていました。けれども、製作が難航してしまって(苦笑)。何とかしなくちゃなあ、と思っていたときに昌くんが故障(2011年春季キャンプ中)。ここで『早くシーズンで投げられるようにしなければ』と開発のペースを上げて、完成にこぎ着けたのがビモロスパイクでした」

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