「鉄人」という看板を掲げた職人。グラブを全国に送る半端ない気持ち (2ページ目)

  • 井上幸太●文・撮影 text & photo by Inoue Kota

 そうして2003年に、久保田スラッガー社に研修を申し込んだが、すんなりスタートとはならなかった。

「スラッガーさんの実店舗での研修なので、当然『誰でも、いつでも』とはいかないんです。でも、『絶対にこの技術を修得したい!』という気持ちはぶれなかったので、何度か研修希望の連絡をさせていただいて。最初の連絡から3年が経過した2006年に『もし、よければ』とお話をいただいて、迷わず『行きます!』と返事をしました」

 福岡でイチから湯もみ型付けの技術を学び、愛媛に戻ってからも試行錯誤の日々を送った。少しずつ地元で型付けの評判が広まり始めた2007年、ウェブデザインを請け負う会社に務めていた知人から、「ホームページを開設し、ネット通販を始めてみてはどうか」と提案を受ける。

「ウェブデザイナーの知人が店に来て、僕が型を付けたグラブを見てもらう機会がありました。その時、『湯もみ型付け、面白いなあ。これって他のお店もやっているんですか?』と質問を受けたんです」

 村上は、福岡の直営店で研修を積んだこと、全国にあるスポーツ店のなかでも限られた店舗でのみ施工されている技術であることを説明。それを聞いた知人は、「それなら絶対需要がありますよ。やってみましょうよ」と持ちかける。しかし村上は、「無理だと思いました」と当時の心境を振り返る。

「まず、グラブを通販で買うこと自体に抵抗があると感じたんです。実際に手を入れて感触を確かめてからでないと......という思いが自分自身にも強くあった。それに、細心の注意をはらって型付けの作業を行ないますが、お湯に通す以上、湯ジミ等のダメージが発生することは避けられません。そういった商品を対面することなく販売するのは、大きなリスクがあると思ったんです」

 当初は抵抗を示していた村上だったが、ある常連客のひと言が転機となる。

「グラブを購入頂いたお客さんから、『僕たちは地元に村上さんがいてくれるから助かっているけれど、いいお店がなくて困っている人も全国にたくさんいるんじゃない?』という言葉をもらって。『そうか、そういう考え方もあるか』と前向きに考えられるようになったんです。ものは試しで一度やってみようと」

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