野球が進化すれば道具も変わる。「固定概念」を覆す職人の闘い (4ページ目)

  • 井上幸太●文・撮影 text & photo by Inoue Kota

「『こういうのがほしかったんだよ! ありがとう』と言っていただけて、まとまった数を納品することができました。大手メーカーに比べたら少ない数ではありますが、取扱店であるイトウスポーツの井藤隆則店長、スポーツショップアントの有元昭博社長と試行錯誤しながら商品を作り上げることができ、バットブランドとして大きな自信になりました。独りよがりになることなく、ひとりひとりの声をすくい上げる。小規模だからこそできることを今後も続けていきたいです」

 様々な出会いから刺激を得るなかで、グラブに施す型も変化しているという。

「今の型はフジモトスポーツ時代からは、かなり変化しています。以前はもっと浅めの型をつけていましたが、今はそのときよりも小指を利かせるようにしていて、全体的に深め。今後、日本人内野手がより上のレベルを目指すなかで不可欠になってくる、『"逆シングル"が簡単に行なえるように』を第一に、現代の野球で使われるグラウンドの特性や、打力向上によって上昇した打球スピードへの対応なども考慮して変えました。

"野球の進化"に型もついていかなければ、という思いも強くあります。今後も変化を恐れず、お客さんにとって最良の型を考え、それを表現する技術を磨いていきたいと思います」

 こう語る藤本の服装も、フジモトスポーツ時代から大きく変化している。現在はTシャツに丸メガネと、一見「野球用品店の店員」には見えない恰好だ。

「以前はメーカー名の入ったウェアを着て、メガネもゴーグルに近いスポーツ向けのものを使っていました。でも、それは『スポーツ店の店長は、こうでなくちゃ!』という固定観念に縛られていたから。これからは自然体でいたいなと思って、こういった格好をしています(笑)」

 顧客の小さな声も汲み取る――。この不変の思いを胸に、変化を続ける男の笑顔は清々しかった。

(つづく)

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