野球が進化すれば道具も変わる。
「固定概念」を覆す職人の闘い

  • 井上幸太●文・撮影 text & photo by Inoue Kota

 理想に近いバットを手にすることで、学生たちが最良の結果を残せるようになるのではないか。その思いに突き動かされた藤本は、他県のバット工場を訪問するなどし、オーダーバットのブランドを立ち上げる。名前は工房と同じく「B.C Works」とした。

「顧客の希望を詰め込んだバットを発注すれば、理想のバットが完成する」。こう思っていた藤本だったが、いきなり壁にぶち当たった。地元の大学で学生コーチを務める青年から注文を受けたときのことだった。

「大学の学生コーチからノックバットの注文を受けて、『グリップはこれで、長さはこう、ヘッドは・・・・・・』といった具合に彼の希望を聞いて発注しました。このときの私は『お客さんの希望通り作れば、理想のバットができる』と単純に考えていましたが、完成したバットを使った彼の感想は『藤本さん、すみません。このバットは使えません』といったものでした。

 木製バットは全体のバランスや、材質との相性を考慮しなければ、"いいバット"になりません。『こう打ちたい、こんなフィーリングで』などの要望に合わせて、それならこの型が近いのではないか、でも、重くなってしまうからヘッドをくり抜いて・・・・・・といったように進めなければならない。それなのに、当時の自分はまったくわかっていませんでしたね(苦笑)」

 ここから青年と二人三脚で理想のバット作りを開始。長さ、重さの調整はもとより、通常のノックバットでは使用しない材質も試すなど、試行錯誤を重ねた。こうして"理想のノックバット"が完成し、現在はその大学でコーチを務める青年も「もうこのバット以外ではノックは打てません」と語っているという。

 それ以外にも、「芯でとらえる練習として竹バット(竹を貼りあわせて作る木製バット)を使っているが、金属バットと形状が大きく異なるため、本当の意味でトレーニングになっていないのではないか?」という意見を取扱店から受け、「金属バットと同形状の竹バット」を共同で制作。大学以降へのステップアップにも繋がる練習用バットとして、好評を得ている。

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