金足農が逃してしまった勝負の運。「必殺技」の失敗が最後まで響く (3ページ目)

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 準決勝までは勝負を急がなかったバッテリーが、なぜ勝負を焦ったのか。それは、大阪桐蔭打線の"圧"があったからだ。菊地亮は続ける。

「ランナーを出せば出すだけ還ってくるというイメージがあったので出したくなった。それ(一塁が空いていること)を視野に入れられれば、点数を抑えることができたと思います」

 今大会、吉田が1イニングに3失点以上したのはこれが初めてだった。いつも通りやることができず、リズムをつくれなかった。

 103年ぶりとなる秋田県勢の決勝進出、東北勢初優勝、2007年夏の佐賀北以来となる公立校の優勝、農業高校の初優勝......。さらに、県内出身者だけのチームで、県大会から一度も選手を交代することなく9人で戦い、エースが1人で投げ抜いて勝ってきたことも、スタンドが後押しする要因になっていた。正直、舞台は整っていた。

 だが、最後の最後で金足農ナインは自分たちの野球ができなかった。"必殺技"を待っていたスタンドの期待に応えられなかった。

 100回の歴史を刻んでも達成されなかった東北勢の優勝。"白河の関"を越えるには、相手と勝負するだけでは果たせない。意識してスタンドを巻き込むことを考えられるかどうかだ。

 スタンドから生まれる見えない力を、偶然ではなく、自ら引き寄せることができたとき......その重い扉をこじ開けることができるのかもしれない。

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