金足農が逃してしまった勝負の運。
「必殺技」の失敗が最後まで響く

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 日大三との試合では、スクイズの構えをしただけでスタンドが沸いた。決勝では、送りバントを決めただけで観客は盛り上がった。金足農のバントは特別と感じているからこその反応。だからこそ、スクイズを決める必要があったのだ。

 2014年夏の甲子園で8盗塁の個人最多盗塁タイ記録を作った健大高崎の平山敦規は、こんなことを言っていた。

「盗塁を期待する空気があるんです。そこで走れば、『オーッ』とスタンドが沸く。もっと走ろうとか、もっと走れる気がしますね」

 健大高崎といえば、"機動破壊"。観客が求めるのは盗塁。だから、スタンドが後押ししてくれる。同じ14年夏に東海大四のエース・西嶋亮太が超スローボールを投げたときも同じだった。投げた瞬間、どよめきと歓声が起こる。テレビの実況アナウンサーも「きたきたきた」と叫んだ。みんな、そのチームや選手の個性、"必殺技"待っているのだ。

 3回表、金足農は一死三塁から2番・佐々木大夢の犠牲フライで1点を返した。反撃の1点にもちろん場内は大歓声だったが、同じ1点でも、スタンドの期待通りのスクイズだったら......。

「スクイズは考えました。カウントが悪くなかった(1ボール0ストライク)のと、1回失敗していたので様子を見てました」(中泉一豊監督)

 このあとはもう"必殺技"を出す展開ではなくなってしまった。

 守備面でも、らしさがなかった。1回裏、暴投で先制点を与えたあとの二死二、三塁。打者が6番・石川瑞貴の場面。カウント3-2から吉田輝星が投じたのはストレートだった。真ん中に入ったところを右中間にはじき返され、2点を追加されてしまった。

 一塁は空いている。打順は下位に向かう。最悪、四球でも構わない場面だ。ストライクからボールになる変化球で誘うという選択肢はなかったのだろうか。捕手の菊地亮太は言う。

「あそこは自信のあるストレートで決めたかった。変化球で暴投した影響? それもあったと思います」

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