アマの名手が出したグラブの答え。内野守備のコツは薬指捕球にあり (3ページ目)

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota
  • photo by Kyodo News

「十河さんの守備理論は、『手の平の面をボールに向けすぎず、グラブをはめた腕を自然に下ろすくらいの角度で打球を処理する』というもの。実際にゴロ捕球を見せてもらうと、柔らかく、どんなバウンドでもサラリと捌いていく。それを見て、『これが目指すべき捕球の形だ!』と確信しました」

"日本式"とは異なる捕球技術を確立した背景を十河氏に尋ねると、現役時代に経験した国際試合での発見が源流となっていることを知る。

「十河さんが現役の頃に、『もっと柔らかく打球を捌くにはどうすればいいのか』と疑問を持たれたことがあったそうです。その時に『柔らかい守備』の代表例として思い浮かんだのがキューバの内野手だった。それで、国際試合でキューバの内野手をじっくり観察すると、先ほど述べたような角度で打球を処理していることを発見した。そこから守備の形を見直して、より柔軟で、正確なグラブ捌きを手に入れたそうです」

 自身の分析と社会人屈指の守備の名手の考えに共通点を見出したことで、「この守備理論を体得できるグラブを作れないか」という気持ちが強くなる。そこから、1、2カ月に1度のペースで監督室に足を運ぶ日々が始まった。いくつもの試作品を持っていっては十河氏からアドバイスをもらい、反映する。

 既存のアイピーセレクトのグラブで十河氏の理論を実践した際に不安の生じるプレーを洗い出し、「全ての局面に対して、違和感、不安なく守れるグラブ」を目指していくなかで、現在のような薬指付近で捕球がしやすいグラブへと変貌を遂げていくことになる。

 当初は、「十河モデル」としての販売を予定していたわけではなかった。だが、十河氏の守備理論の正確さ、アイピーセレクトのグラブに真摯に向き合ってくれる姿に感銘を受けた瀬野氏に"ある思い"が芽生える。

「十河さんへの訪問を繰り返していたとき、瀬野社長から『十河さんモデルのグラブを作りたい』という思いを伝えられました。私も最初は驚いたんですが、素晴らしい試みだと直感して『絶対にやりましょう!』と即答したのを覚えています。無名メーカーのグラブに対しても本当に真摯に向き合っていただいたことへの感謝、敬意を込めて、4回目の訪問のときに『ぜひ作らせてください!』と、瀬野社長から十河さんに伝えました」

3 / 5

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る