1回戦負けの常連から甲子園出場へ。白山高校は「数」で常識を覆す (4ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kyodo News

 現在の3年生が入学してきたタイミングでは野球部はまだ発展途上であり、部員数も当時の3年生が8人、2年生は3人と多くなかった。そのため、今の3年生は1年時から実戦を経験している選手が多いのだ。

 さらにエアコンが壊れ、ところどころシートの傷みが目立つマイクロバスを使って、三重県内外にも遠征に出かける。1年間の練習試合数は150を超える。春のセンバツに出場した乙訓(京都)や、今夏の甲子園に出場している常葉大菊川(静岡)とも練習試合をし、勝利を収めて自信を深めた。

 今夏の三重大会で大きなヤマ場だったのは、3回戦で対戦した菰野(こもの)戦である。菰野は昨夏の3回戦、今春の準々決勝でも対戦し、いずれも敗れた相手だった。最速150キロを超えるドラフト候補右腕・田中法彦(のりひこ)、さらに田中を上回る潜在能力を持つと言われる2年生右腕・岡林勇希ら好投手を何人も擁する優勝候補だ。春の準々決勝では、白山は岡林の前に1安打12奪三振と抑え込まれ、完封負けを喫している。

 しかし、栗山が「もう当たるのはわかっていたんで、『三度目の正直』、チャレンジャー精神でいきました」と語るように、選手たちは硬くなることなく強豪と渡り合った。岩田剛知(たけとも)、山本朔矢(さくや)の両右腕が菰野打線の攻撃をしのいで終盤勝負に持ち込むと、8回表には山本の3点適時二塁打で逆転。さらに追いつかれた9回表には、左の強打者・伊藤尚が田中の渾身のストレートを弾き返し、ライトスタンドに運んだ。

 白山には使えるピッチングマシンがない。速球対策として若いコーチ陣がマウンドの数メートル前から打撃投手をしていた。コーチ全員が打撃投手を務められるだけに、ここでもスタッフ陣の力が生きた。

 試合終盤、ピンチを招いた場面で伝令に走った2年生のパルマ・ハーヴィーは、マウンドに集まる先輩たちの姿を見て驚いたという。

「3年生が笑っていたんです。みんな落ち着いて、集中していました。僕は普段、伝令に出るときは監督の指示と、その場の思いつきで何かを言って笑わせるのが役目なんですけど、このときは僕が何か言わなくても勝てると思いました」

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