1回戦負けの常連から甲子園出場へ。白山高校は「数」で常識を覆す (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kyodo News

 セミの鳴き声と農業用水路のせせらぎくらいしか音がしない、山あいの小さな町。家城駅の駅舎には白山高校の甲子園出場を知らせるA4用紙の貼り紙があるくらいで、「フィーバー」というにはあまりにささやかだった。それでも町を歩けば、「あの白山が甲子園だなんて......」という驚きの声があふれていた。

 白山の野球部を実際に取材してみて驚いたことがある。最大の驚きは、「指導者の多さ」である。てっきり東監督と川本部長の2人体制なのかと思いきや、顧問はなんと8人。そのうち、現場指導ができる指導者が5人もおり、川本部長は書類作成などの事務仕事を担当している。

 東監督は言う。

「若くて教員免許を持っていても、教員採用試験になかなか受からずに、教えたくてウズウズしている人ってたくさんいるんです。僕も20代の頃はそうして過ごしてきましたから、若くして情熱を持って現場指導できる人が今でもうらやましいです。教えたい気持ち、失敗してもいいから生徒の近くでぶつかっていく姿勢は絶対に力になります」

 そこで、久居(ひさい)高、大阪体育大を通じての後輩である諸木コーチと、上野高監督時代の教え子である片岡翔コーチを講師として呼んでもらうよう取り計らった。さらに2018年4月からは新たに池山桂太コーチ、磯島毅コーチという20代の教員が異動で指導陣に加わった。磯島コーチも東監督の上野高時代の教え子であり、片岡コーチの2学年先輩にあたる。

 練習の合間にこんなシーンがあった。ある1年生部員が筋骨隆々の池山コーチに近づき、なれなれしく胸に手を当てたのだ。一般的な野球部であれば緊張が走るシーンだが、池山コーチは1年生部員を軽くあしらい、叱責することはなかった。

「もちろん絶対に越えてはいけないところを越えたら怒りますけど、ここ(白山)ではその許容範囲を広くしないと成り立ちません」

 池山コーチはそう言って笑う。

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