自己採点30点で14奪三振。
金足農・吉田の直球は強烈にキレる

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

「この投手はちょっと違う」と感じた言葉は他にもあった。甲子園での登板を控えた吉田に「何か気になっていることや不安なことはありますか?」と聞いたときのことだ。吉田は少し考えてからこう答えた。

「風が他の球場とは違うので、チームとして守りで声掛けをしっかりしたいと思います。応援の音が大きくて、声が聞こえにくいと思うので」

 自分の投球云々の前に、チームが勝つためにチェックすべき要因を挙げたのだ。吉田の視野の広さを感じずにはいられなかった。吉田は甲子園という大舞台でただ投げて、プロスカウトにアピールできればいいという感覚では来ていない。勝つために甲子園に来ていたのだ。

 いざ鹿児島実との試合が始まると、その実力と思考力は随所に顔を見せた。たとえば1回表、二死二塁で鹿児島実の主砲・西竜我を迎えた場面。鹿児島大会で打率.524、1本塁打8打点と結果を残した左打者に対して、吉田は2ボールからストレートを続けた。146キロで1ストライク、147キロでファウルを打たせ2ストライク。多彩な球種を持つ吉田なら、ここでチェンジアップなど落ちる変化球も使うことができたはずだ。だが、吉田は144キロのストレートを外角いっぱいに決め、空振り三振に仕留めた。

 試合後、吉田はこのように振り返っている。

「西くんは鹿実で一番いいバッターなので、1打席目で真っすぐを見せつけておくことで、のちのち変化球も生きてくると思いました」

 吉田はただ西を抑えるだけでなく、ねじ伏せることで鹿児島実打線の勢いを封じ、金足農に流れを持ってきたのだ。事実、金足農は序盤から主導権を握り、3回には3点を奪って試合を優位に進めている。

 重力に逆らうような吉田のストレートは、確実にレベルアップしている。1年前の映像と今夏の映像を見比べてみると、吉田の投球フォームは明らかに体重移動がスムーズになっている。そのことを吉田に尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「下半身を強化したことで、下に粘りが出てきました。軸足(右足)に残した力を、最後に回転して前足(左足)に乗せるんですけど、その乗りがよくなりました」

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