大阪桐蔭戦、履正社の大博打の舞台裏。
緊迫の攻防に高校野球の原点がある

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Kyodo News

 当時を振り返り、濱内は「打つよりも投げる方が自信ありました」と語ったように、大阪桐蔭も興味を示す逸材だった。百武コーチも「最初のピッチングを見て、この学年でエースになるのは濱内だと思いました」と語ったように、2学年上の寺島成輝(現・ヤクルト)、1学年上の竹田祐(現・明治大)に次ぐエース候補として期待を集めていた。

 しかし、1年秋までは投手として過ごすも、ルーズショルダーに悩まされ、やがて打撃を生かすため野手に転向。昨年の夏前に本人は密かに投手復帰を目指したが、調子が上がらず断念した。

 とはいえ、濱内は頭のどこかにマウンドへの思いがあった。昨年秋、履正社は近畿大会の初戦で智弁和歌山に乱打戦の末に敗れ、センバツ出場を逃していた。投手陣が苦しむなか、「自分が期待通りに投手として成長できていれば、チームの状況も変わったはず」という悔いが残っていた。

 それを晴らす舞台が思いもよらぬ形で巡ってきたのが、大阪桐蔭との一戦だった。試合中、スタンドで顔を会わせた百武が力を込めた。

「十分に調整してきたわけではないですし、もともと肩に不安を持っていた子。どこまで持つかわからないし、次がどうこうということもない。とにかく今日を戦うためのピッチャー。どこまで持つか......」

 すると7回表に均衡が敗れ、大阪桐蔭が先制。2点目を失ったところで濱内はマウンドを降り、ライトへ。その裏、履正社が1点を返すと、8回表に濱内が再登板。無死満塁の大ピンチを無失点でしのぐと、その裏、筒井、西山、濱内、松原任耶(とうや)ら、昨年のセンバツ準優勝を知るメンバーが意地の攻撃を見せ、あえて言うが"まさか"の大逆転。

 そして1点リードで迎えた9回表、勝利まであとアウト1つまで追い詰めたが、そこから4連続四球を与え同点。さらに大阪桐蔭の6番・山田健太にレフト前タイムリーを許し4-6。王者の底力を見せつけられた。岡田監督は言う。

「3人の投手でまかなうプランが、選手交代の結果、4人目が必要になり、濱内をもう一度マウンドへ上げざるをえなかった。だから9回の場面もいっぱいいっぱい。相手の打ち損じを期待するしかありませんでした」

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