大阪桐蔭戦、履正社の大博打の舞台裏。緊迫の攻防に高校野球の原点がある (2ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Kyodo News

 濱内の先発を最終的に決断したのは、試合前日の練習後。まず、捕手の野口海音(みのん)と岡田監督が話をし、その後、投手コーチの百武克樹(ひゃくたけ・かつき)に電話で相談。ここまで3戦に先発していた2年生左腕・清水大成と濱内の二択となり、最後は岡田監督が濱内の先発を決めた。本人には試合当日の朝、部長の松平一彦から伝えられた。

 だが、マスコミ関係者もスタンドに詰めかけた観客も、誰ひとりとして想像していなかった濱内の先発を、唯一予想していた人物がいた。大阪桐蔭のコーチ・石田寿也だ。

 投手指導に加え、相手の分析、スカウティングと八面六臂の活躍を見せる石田は、前日のミーティングで「濱内・先発」の可能性を口にしていた。

 そう考えた理由は、まず石田が中学時代の濱内の投手としての実力を知っていたこと。さらにこの夏、濱内がブルペンで投げているのを確認していたこと。そして先発の軸である清水の調子が上がらず、背番号1の位田(いんでん)遼介はリリーフに置いておきたいという履正社の投手事情を推察してのこと。これらの理由を総合的に判断した結果、「ひょっとすると......」という考えに至った。

 大阪桐蔭の強さの一端を示す話だが、少なくとも選手たちは濱内の先発に動揺することも慌てることもなかった。

 ただ、その濱内が「ゲームで投げたことはないし、どれだけの球数を投げられるのかわからない。試合前は3人の投手で、3回ずつという考えも頭にあった」と言う岡田監督の予想を大きく上回り、6回まで大阪桐蔭打線をゼロに抑える好投を見せた。

 実はこの夏が始まる前、濱内にインタビューをしたことがあった。話題は、最大のライバルである大阪桐蔭や、そのチームのキャプテンを務める中川卓也、さらには自身のバッティングへと流れたが、その最後、思わぬところで盛り上がったのが「投手・濱内」についてだった。

 松原ボーイズ時代、投打で注目されていた濱内は、根尾昂(あきら)や横川凱(かい)らと同じく硬式の日本代表チーム『NOMOジャパン』でもプレーした。

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