武井壮の恩師が高校野球に復帰。12年の沈黙から3か月で古豪復活へ (4ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text&photo by Kikuchi Takahiro

 指導を始めてまだ3カ月である。言いたいことはたくさんある。だが、それ以上に選手たちの成長がうれしくてたまらない。小田川監督の弾んだ口調から、そのことが伝わってきた。

「今日投げた石川(嘉也)は、前の試合で6点先制した裏の守備で先頭打者にフォアボールを出したんです。石川には『バッターの顔を見て投げているか?』と言いました。自分しか見えていないから、力が抜けないんじゃないかと。五分の力で投げても球速まで半分になるわけではないのですから」

 その言葉を受けて臨んだ板橋戦、再び先発登板した石川は見違える投球を見せた。小田川監督から感想を求められた石川はこう返答したという。「力を抜くということが、力になるということがわかりました」。

「『なに哲学的なかっこいいこと言ってるんだよ!』って思いましたけど(笑)、彼も全力で速い球を投げ続けるより、同じ真っすぐでもスピードに変化をつけるほうが打ちづらいことにようやく気づいたようです」

 ところで、試合中に鈴木コーチに采配を委任しているのはなぜなのか。そう問うと、小田川監督は決然とこう答えた。

「私は彼らの冬の練習を見ていません。誰がギリギリまで自分を追い込んで練習したのか、その姿を見ていません。私はその姿勢が夏に出ると思っています。だから冬場に陣頭指揮をしてきた鈴木コーチに采配を任せています。鈴木コーチもお若いので、込み入った場面では私に意見を求めてくれますし、それでいいと思っています」

 21日には第二シードの都立の雄・城東と5回戦を戦い、10対0(5回コールド)と圧勝した。城東は春の大会でも対戦し、3対4で敗れた相手だった。これで東東京ベスト8である。

 修徳学園中の教え子である武井壮からは、関係者を通じて「準決勝、決勝は応援に行きます」というメッセージが届けられたという。

 選手たちの士気も高い。小宮は「自分たちにいい風が吹いているので、この勢いを落とさず勝ち上がって、小田川先生を胴上げしたい」と息巻く。

 7月7日に62歳の誕生日を迎えた新監督は、「夏の空気はやはり違いますね」と晴れやかに語った。再び頂点を目指す道のりは、決して甘いものではないだろう。それでも自身の誇りと伝統校の再興をかけた戦いは、まだ始まったばかりだ。

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