武井壮の恩師が高校野球に復帰。12年の沈黙から3か月で古豪復活へ (3ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text&photo by Kikuchi Takahiro

 堀越に来て小田川監督が驚いたのは、想像以上に選手たちがひたむきで、かつ能力が高いことだった。監督不在の冬場の4カ月を鈴木コーチらとともに乗り越えた選手たちは、本格的な指導に飢えていた。堀越の主将を務める小宮諒太郎は言う。

「監督がいないことは僕らにはどうにもできないことなので、変わらず積み上げてきたことをやっていこうと冬の間も信念は貫いてきました。チームメイトにも輪を乱すヤツいませんし、自分たちを信じてやっていこうと」

 小田川監督が堀越に赴任したのは、春の大会の初戦2日前だった。選手たちは小田川監督からそこで意外なことを教わっている。小宮が明かす。

「まず野球のルールから教わりました。選手として最低限、頭に入れておかなければいけないことだと。それまでの自分たちは、ただ力だけで野球をやっていました。スーパースターがいるわけでもない自分たちが勝つには、頭を使ってチーム力で勝たなければいけないことに気づかされました」

 真面目で吸収力のある選手ばかりだったが、一方で気になることもあった。それは選手たちが自信を持ってプレーしていないことだった。小田川監督は言う。

「いい選手が多いのに、自分に自信がないんです。どうしてなのか考えました。彼らは中学時代に名の通ったチームに所属していて、控えメンバーだった選手が多いんです」

 どこかで気後れしているのだろうか。高校で実力を磨いているにもかかわらず、どこか自信なさそうにプレーする選手たち。それが顕著に表れていたのが走塁だった。

「中学時代からの試合経験が少ないから、走塁面は強豪との差がありました。ホームに還ってこられる打球でも足が止まってしまう。走塁は、相手捕手がショートバウンドを止めるのを見て、ランナーが1~2メートル先まで進んで止まる練習から始めました」

 板橋戦では走塁練習の成果が出て、二塁走者がシングルヒットでホームに生還し、また打者走者が送球間に二塁まで進むシーンも見られた。小田川監督はベンチの奥から立ち上がり、選手に向かって両手でピースサインを送っていた。

「生徒たちに『それでいいんだ!』とオーケーの合図を送ったんです。少しでも自信になればいいですし、それを続けることで自分のものにしてほしいんです」

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