悪夢の落球をした開星のセンターは、
甲子園で「一生のテーマ」をもらった

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota
  • photo by Kyodo News

 しかし、それは嫌がらせの類いではなく、「むしろありがたかった」と振り返る。

「気を遣って『触れないでおこう』と距離を置かれるよりは、自分としてもありがたかったですね。臆せず関わっていく、懐に飛び込んでいくのが"関西流"なのかなあ......と(笑)。反対に、高校のときのチームメイトや、クラスの同級生は、僕に配慮して触れないでいてくれて。それも優しさですし、本当に周りの人々に救われた、助けてもらったと思います」

 あの落球から学んだことは何だったのか。この問いに対して現状を交えながら、本田は言う。

「どうしても『気の緩み』が出てしまうのが、人間というもの。その緩みをなくすにはどうしたらいいのか。特に自分は、『集中力を保つ』ことが大きな課題というか、一生のテーマだとも思っています。

 仕事に置き換えると、ミスを繰り返さない、上司から同じことを注意されないように気を配る。日々の活動でも、お客さまと約束に遅れないように、『だろう』『だったはず』で済ませず予定の確認を怠らないこと。『気の緩みの怖さ』は、あのエラーがあったからこそ、気づけたと思います」

 こう話したあと、少し名残り惜しそうな表情で、こう付け加えた。

「今でも『最後の打球をちゃんと捕球していたら、(チームは)どこまでいけたのかな』とは思ってしまいますね。仙台育英がベスト16まで勝ち進んで、興南(沖縄)に負けた。もし自分たちが勝ち進んで、興南と対戦したらどんな試合になったのか。優勝校相手にどこまで食らいつけたのか。全国で戦う力は十分あるチームだったと思うので、そこを見たかったなあ、と思います」

 初めて出場したときには"天国"を、最後の夏には"地獄"を見せられた場所。その両面を味わった本田が思う"甲子園"とは。

「必ずしも"いいことばかり"の場所ではないかな......と思います。試合は1回戦から全国中継されていて、ワンプレーに対して賞賛だけでなく、バッシングも想像以上に多くある。出るからには強い決意、相応の"覚悟"を持って臨まなければならない場所だと思います」

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