悪夢の落球をした開星のセンターは、
甲子園で「一生のテーマ」をもらった

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota
  • photo by Kyodo News

 しかし、これで試合は終わらない。その裏、開星の攻撃にも大きな見せ場が待っていた。2つの死球で二死一、二塁のチャンスを作り、打席には、チーム1の好打者・糸原。カウント3-2から振り抜いた打球が、左中間を襲う。ベンチから打球を見ていた本田は、逆転を確信する。

「打球方向、角度を見て、『これは抜けるだろう』と思いました。レフトが捕球できたとしても、ショートバウンドで押さえるのが精いっぱいのはず。チーム1の俊足が一塁ランナーの代走で出ていたので、十分ホームに還ってこられると」

 仙台育英は守備位置の変更を行なっており、ファーストの三瓶将大(さんぺい・まさひろ)がレフトに回っていた。1番を打つ俊足の三瓶が猛スピードで打球を追い、最後はダイビングキャッチ。風に流された打球が、グラブに吸い込まれるかのような"スーパープレー"だった。

「一塁ベンチからは、捕球されたかどうかが、はっきりとは見えなくて。『どっちだ!?』と思っていたら、審判がアウトコールをする姿が見えました。その瞬間に『終わってしまった......』と今まで味わったことのない切ない気持ちになりました」

 試合後は、報道陣からプレーについて数多く質問されたが、「何かしら回答したとは思うんですが、放心状態でほとんど記憶がないんです」と振り返る。

 高校最後の夏は、苦いものとなったが、進学した大阪体育大でも野球を続けた。大学で野球を続けることに迷いはなかったという。

「ここで野球から逃げてしまったら、恥ずかしいし、絶対に悔いが残る。高校時代の無念を晴らす意味でも、絶対に続けようと思っていて。迷いはなかったです」

 甲子園後は大学が開催する練習会に参加。そこでも当然のように"落球"が付いて回った。

「高校の公式戦用のユニフォームを着用して練習会に臨んだのですが、センターを守ったときに、『君って、"あの"開星のセンター?』と言われることもありました。入学後も打撃練習でフライが飛んでくると『お、捕れるんかー?』とイジられることも多かったですね(苦笑)」

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