悪夢の落球をした開星のセンターは、甲子園で「一生のテーマ」をもらった (4ページ目)

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota
  • photo by Kyodo News

 3-3の同点で迎えた7回裏。この回先頭の5番・白根がレフトにソロ本塁打、さらに8番打者がスクイズを決め、勝ち越しに成功する。

 2点リードで迎えた9回表、白根はテンポよく二死を奪うが、そこから安打と死球でピンチを招く。その直後の痛烈な打球をショートが弾き、1点差。続く1番打者の安打で二死満塁となり、2番打者が初球を打ち上げる。本田も素早く落下点に入り、勝負は決したかに思われた。

「打球が飛んできているのに、『これを捕ったら終わり。捕ったあとは、整列して、アルプスにあいさつ、ベンチを片付けて......。それから宿舎で何をしようかな』と、終わったあとのことばかり考えていました。目の前のプレーに集中できていなかった」

 上空に舞っていた風に押し戻され、目測よりも打球が伸びてこない。慌てて前進したが、グラブの土手付近にあたった打球は、無情にもグラウンドに落ちる。

「グラブに当たった位置が悪すぎて、その瞬間に『まずい、捕れない』と思いました。そこから急いでボールを拾って、バックホームをしましたが、正直よく覚えていません。落とした瞬間から頭が真っ白。スコアボードの『6-5』のスコアを見て、『とんでもないことをやってしまった』と状況を理解しました」

 試合序盤から吹いていた強風のことは、もちろん、本田の頭にも入っていた。

「初回に相手の3番・佐藤くん(貴規、元東京ヤクルト)が放った打球が『追いつけるかな』と思ったところから風で左中間よりに流されて『相当強い風が吹いているな』とわかってはいたんですが......」

 普段なら何事もなくさばいていたはずのフライ。「今までの野球人生で、トンネルはあっても、フライを落としたことはなかった」と振り返るように、守備に対する自信も判断を鈍らせた。

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