中村奨成ともうひとりの覚醒。
「カチカチバット」が悩める球児を救う

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota
  • photo by Kyodo News

 そこから約2年後、中村が3年生になった2017年に、野田の長男と広陵野球部時代の同期にあたる中井監督の長男・惇一(じゅんいち)が母校に赴任し、野球部の副部長に就任した。野田の長男の成長を支えていた"秘密兵器"の効果をよく知る新副部長は、カウンタースイングを用いての熱心な指導を始める。

 それまで中村はカウンタースイングを使いこなせずにいたが、惇一副部長の指導が始まってから約1カ月の振り込みで「音1回」のスイングを手に入れ、満を持して高校最後の夏を迎えた。

昨夏の甲子園本番では大活躍した中村奨成だったが・・・・・・昨夏の甲子園本番では大活躍した中村奨成だったが・・・・・・ しかし、広島大会では2回戦の死球が尾を引き、打率は2割を切った。準決勝、決勝で2試合連続の本塁打を放って甲子園行きを決めたものの、中村個人としては満足のいく結果を残すことはできなかった。

 甲子園出場のために関西に入ったあと、広陵が高野連から割り当てられたグラウンドで練習していた際に、差し入れを持った野田が陣中見舞いに訪れる。ここから、本塁打の新記録樹立へと物語が大きく動き出す。

「グラウンドに着いて、中井先生と少し世間話をしていたときに、『県大会で死球を浴びてから今ひとつ中村の調子が上がってこない。どうしたらいいと思う?』と相談を受けたんです」

 選択肢はふたつあった。ひとつは、左手の状態に合わせて通常よりもトップを浅く(バットのグリップを体に近く)すること。そしてもうひとつは、これまで取り組んできたようにトップを深くとる打撃を貫くこと。野田に迷いはなかった。

「『これまで通りトップを深く取りましょう』とはっきり伝えました。さらに言えば、左手に力が入りづらい状況だからこそ、手先の力に頼らなくてもすむように『今までよりもさらに深く』と提案しました。そうすることで逆方向の打球も更に伸びるようになるはずだと」

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