全校生徒67人、野球部24人。
来春閉校の熊本・多良木高、最後の夏

  • 加来慶祐●文・写真 text&photo by Kaku Keisuke

 エースの古堀廉大(ふるぼり・れんた)は東京都大田区にある大森十中を卒業しているが、祖父母の家に遊びに来た中学3年の夏休みに、両親の母校である多良木高の野球部の練習を見て、「ここでやりたい」と単身越境してきた。

「雰囲気がよくて、都会ではあまり感じることができない地域との一体感もいいなと思ったので......」

 高校野球が100年以上にわたって支持され続けてきた要因のひとつである地域密着の真髄を、人口1万人弱の町にある閉校寸前の高校によって思い知ったのだ。

 多良木高、最後の夏。

 初戦は八代工に10-5と打ち勝った。2回には、下位打線の4連打や、絶対アウトのタイミングで相手のベースカバーが遅れたり、けん制で誘い出されながらもタッチアウトにならなかったりと、"神がかっている"としか思えない点の入り方で一挙5点のビッグイニングを演出。

 2回戦の鹿本商工戦は、13安打で14得点を挙げ、14-1の6回コールド勝ち。"台風の目"になりそうな勢いを感じさせている。

 熊本大会開会式の選手宣誓で「高校野球の精神や地域への感謝の思いは、必ず次の100年につながっていく」と宣言した主将の平野光も、「町と一体化して戦う」と力強く語る。

 高野連は今年6月に、硬式野球部員の数が4年連続で減少傾向にあると発表した。前年からの8389人減は、統計を取り始めた1982年以降で最大のダウンだった。うち1年生部員の数は50413人と、こちらも平成以降では過去最少を記録している。

 熊本県高野連の工木(くぎ)雄太郎理事長は「熊本地震後はさらに減少が進んでいる感がある」と頭を抱える事態だ。前後期の学校再編によって当面はこれ以上の学校減はないとされるが、今後は単独での編成が困難なチームが増加し、連合チームでの参加がますます増えてくるだろうと工木理事長は言う。

 初戦、2回戦と快勝し、旋風の予感は漂っているが、カウントダウンは着々と進んでいる。まだまだ最後の挑戦を終わらせるわけにはいかない。

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