甲子園のスラッガーたちは、なぜ1年生・荒木大輔を打てなかったのか (4ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • 岡沢克郎●写真 photo by Okazawa Katsuro

 荒木は決勝まで5試合44回3分の1を投げて1点も取られなかった。早実は先に点を取って主導権を握り、それを守り切る手堅い野球で勝ち上がっていった。決勝戦の初回を0点で切り抜ければ、夏の甲子園の無失点記録を1年生ピッチャーが塗り替えることになっていた。

 決勝の横浜戦で何が違ったかと言われても、基本的には同じやり方、同じ気持ちで臨んだつもりでした。でも、試合が終わってから振り返ってみたら、ちょっと違っていたかな。

 早実は東東京大会からずっと、「甲子園に出なきゃとか、優勝しなきゃいけない」といった余計なプレッシャーとは無縁のチームで、目の前の試合に勝つことだけを考えていた。でも、甲子園の決勝までくると、どうしても優勝がちらついてしまった。決勝は、勝っても負けてもそこで終わり。「だったら勝とうぜ」という気負いがあったのかもしれない。そのせいかどうかわかりませんが、ミスがいくつも出てしまいました。

 僕たちが初回に1点を取ったのに、すぐに2点取り返されて、最後までペースを握られたままでした。横浜はもともと優勝候補で、僕たちは無欲で勝ち進んだチーム。くじ運に恵まれた部分もありましたから。初めて勝ちを意識して硬くなったのか、欲が出たのか、それはわかりません。よそ行きの戦いになってしまいました。

 大輔自身、それまでと変わるところはありませんでした。疲れた様子はありましたが、疲労のせいでボークをしたわけじゃない。初回を0点で抑えれば新記録を達成することはわかっていましたが、特に意識はしませんでした。僕たちが1点取ったので、いつも通りの試合運びだと思ったんですが、1アウト1、3塁から4番打者の片平保彦(元横浜大洋ホエールズ)にヒットを打たれて失点。それも普段の小沢なら捕れた打球でした。

 ダブルプレーで終わって初回を0点に抑えていれば、そのあとはどうなったかわからない。結局、大輔は5点を取られて、3回でマウンドから降りました。どこが悪いということはなかったけど、キャッチャーの感覚で言うと、回転数がいつもとは違ったかもしれない。

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