横浜×PL延長17回最後の打者が、
独立リーグ監督となって揺れる心

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 市川光治(光スタジオ)●写真 photo by Ichikawa Mitsuharu(Hikaru Studio)

 BCリーグには、近所で飛び抜けて野球がうまかった野球少年が揃っている。小学校、中学校でお山の大将だった彼らは、高校に入った頃、己が井の中の蛙だったことを知る。それでも大海へと泳ぎ出ることを諦められないから、野球にしがみつく。それは野球が"中途半端に"うまかったからこその難しさでもある。

 もしドラフトにかかったとしても、一生、野球でメシが食える選手は、ほんの一握りだ。だからこそ、田中が独立リーグの監督として、我が子の......いや、年齢差を考えれば実の弟のような、そんなエレファンツの若い選手たちに向けるまなざしは複雑だ。

「彼らは野球でお金をもらってますけど、正直、僕にはプロ野球選手には見えていません。生活するのもギリギリの給料で、はたしてプロと言えるのか。もっと言えば、NPBだって入るだけじゃ、メシは食えませんからね。活躍して初めて、プロと言える。そう考えると、NPBに入ることはゴールじゃないんです。彼らにはプロで活躍することを目標にしてほしいし、となるとそこは努力だけじゃ、どうしようもない次元の話にもなってくる。

 プロに行けないレベルの選手だったら、1年でも早く社会に入って仕事を覚えることの方が本人のためになると思うこともあります。だからここはNPBを目標にする場であり、野球をあきらめる場でもあると思うんです」

 今年からルートインBCリーグは、所属する選手を26歳までとする年齢制限を設けた。NPBからドラフトで指名される選手のほとんどが26歳以下であることから、期限を区切って挑戦してほしいというリーグ全体の方針として打ち出した、厳しくも温かい仕組みである。ただ、各チームには客を呼べる27歳以上の選手もいる。だから、オーバーエイジ枠を5人、残した。田中はこう続けた。

「正直、もう、違う道に行ってもいいんじゃないかなと思う選手はいますよ。でも、その子の人生ですから、納得するまでやらせたいという気持ちも捨てきれないんです。やっぱり、納得できないからここに来て、野球を続けているんでしょうし......」

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