53歳の山本昌が、突然ピッチング
練習を再開。その驚くべき理由は?

  • 菊地高弘●文・写真 photo by Kikuchi Takahiro

 35年前にも自身が練習していた母校のグラウンドを眺めながら、山本昌コーチは「あまり変わらないなぁ......」とつぶやいた。5人が同時に投球練習できるブルペンの右から2番目のマウンドを足でならしながら、「僕らの時代はここがエースの投げる場所でした。僕が2年生のときは荒井さん(直樹/前橋育英監督)が使っていたなぁ」と愛おしそうに懐かしむ。そして、その場所は現役エースの新村がこの日、投球練習していたマウンドでもあった。

 現役球児にもっとも伝えたいことは何か。そう尋ねると、山本昌コーチからこんな答えが返ってきた。

「一番は体を壊さない投げ方を身につけてほしいということですね。自分で言うのもなんだけど、僕は50歳までヒジ、肩にメスが入ったことはありません。個人によって筋肉や関節のつき方は違いますけど、基本は小学生もプロも一緒。だから故障の少ない投げ方を伝えたいですね。故障をすると野球がつまらなくなるじゃないですか」

 投手陣全員の投球練習が終わると、山本昌コーチはグラブを右手につけ、マウンドでキャッチボールを始めた。食い入るように見つめる選手たちに「ちょっと(マウンドの)後ろから見てごらん?」と促した。

「こんな軽いキャッチボールでも、ラインの中に入っているでしょう?」

 山本昌コーチが3年ぶりに投球練習を再開した理由は、仕事のためでも個人的な趣味でもない。「選手に見本を見せたいから」だという。

 選手はただ山本昌コーチの技術を見ていただけではないはずだ。山本昌という偉大な野球人がまとう雰囲気、存在の大きさ。もしかしたら、そのすべてに圧倒され、言葉が耳に入ってこない部員もいたかもしれない。

 しかし、それでもいいのではないか。一流のオーラを間近で浴びたことは、その選手にとって甲子園に出場することとはまた別種の得難い経験になるはずだ。

 こんな光景が今まで以上に、全国のアマチュア野球の現場に広がっていくことを願わずにはいられなかった。

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