53歳の山本昌が、突然ピッチング練習を再開。その驚くべき理由は? (2ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 photo by Kikuchi Takahiro

 兄を呼んだ意図を山本監督はこう説明する。

「前から本人が『指導したい』という意思を持っていましたので、資格を回復したタイミングで指導に来てもらうことになりました。人間の体の構造に応じた動かし方を追求してきた人ですから、選手にも体の使い方を教えてもらいたいと思っています。何かをきっかけに飛躍的に伸びる選手もいますし、大学以上で続けて『野球を極めたい』という選手が1人でも多く出てくればいいなと考えています」

 日大藤沢は春3回、夏1回の甲子園出場を果たしている神奈川の強豪である。だが、近年は進学面により力を入れる学校の方針を受け、なかなか有力な選手が集まりにくい状況になっている。

 現役時代は社会人・三菱自動車川崎で捕手だった山本監督の卓越した指導力で毎年のように好捕手輩出しているものの、甲子園にはあと一歩、二歩及ばない年が続いていた。

 この日、4月23日は山本昌コーチが就任して以来、4度目の指導日だった。

 投手陣の投球練習を前に、山本昌コーチは選手たちを呼び寄せた。

「テレビでよく『ストラックアウト』って見るよね。みんな、あれをやるならどの球種で投げる?」

 選手が「ストレートです」と答えると、山本昌コーチは「うん」とうなずいて、こう続けた。

「そう。まずはストレートでストライクを取る方法を覚えよう。体の使い方によって『ここにいく』という投げ方がしやすいのはストレートだから」

 そして、山本昌コーチは「いつも言っているけど」と前置きして、投球フォームの基本的な理論を語った。

「自分の体の幅の中で、上から前で叩く。それが基本。体の幅から腕が出たり、バラバラだと少しのズレでボールは放射状に散らばってしまう。幅の中で投げれば放射状には行かなくなるから、コントロールがつくんだ」

 投手が投げる際に使う空間の幅のことを山本昌コーチは「ライン」と呼ぶ。このラインを体の幅の中で収めて投げることが、投球の基本だという。ステップが捕手方向から大きく外れたり、リリースが頭から大きく離れるとラインが広がってしまい、コントロールがつきにくくなるという理屈だ。

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