27年前のパ・リーグ首位打者が、
大学2部に沈む母校復活を託された

  • 菊地高弘●文・写真 text&photo by Kikuchi Takahiro

 後半戦に故障をして数字を落としたものの、最終的には打率.320と自己最高アベレージをマーク。オリックスのイチローが.358とずば抜けた数字を残したため7年ぶりの首位打者こそ逃したものの、その実力がフロックではないことを証明してみせた。

 あれから20年――。

 大学野球の監督となり2年目を迎えた平井監督の胸中に広がっているのは、学生へのもどかしさだった。

「僕が大学生の頃よりも、たくさん練習していますよ。環境だって、室内練習場はあるし、ブルペンも新しく作ってもらって、学内に寮もある。雨が降ったら練習ができないチームだってあるのに......。そう考えるともどかしいですよね」

 今春は大黒柱になってくれるはずと期待していた投手が開幕戦で初回につかまり、わずか3分の1、8失点の大炎上で降板。その試合を落とし、勢いに乗れないままシーズンが進んでいた。

 打線でカバーしたいところだが、「低めの球を狙おう」と指示を出せば高めの球を打ち上げ、「ファーストストライクを振ろう」と言えば2ストライクまで見逃して最後は打たされる。「僕の教え方が悪いのかもしれないけど......」と、平井監督の苦悩は深い。

 現役時代、ファーストストライクから積極的にスイングしてヒットを重ねてきた打者だからこそ、選手たちへの苛立ち、自身への情けなさも倍増する。

「学生たちにはレベルを下げて話しているつもりなんです。それでもできない......」

 名古屋産業大に敗れた試合後、グラウンドにはすぐにケージが運び込まれ、打撃練習が始まった。今年取り組んでいるテーマは「アウトコース」だという。

「外のボールをしっかりと強く振り切れるようになりなさいと言っています。去年はそこを打たされて、自分のスイングができないままでしたから」

 プロで首位打者になってよかったことはあるか平井監督に聞くと、吐き捨てるように「でも5安打ですよ?」と返ってきた。その日、愛知工業大が放ったヒットの本数だ。もはや過去の勲章など平井監督の眼中にない。

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