あの「人的補償」の元チームメイトに続け。月給10万円から挑むプロ (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 市川光治(光スタジオ)●写真 photo by Ichikawa Mitsuharu(Hikaru Studio)

 第1シードとして迎えた沖縄の夏、大会ナンバーワン右腕の呼び声高い平良を擁する北山は、初戦となった2回戦で美里と対戦した。1-1のまま延長に突入した投手戦は14回裏、突如、終わりを告げた。

 美里の3番、吉浜清亮が放った打球は高々と舞い上がり、レフトのフェンスを越えたのである。第1シードの北山、まさかの初戦敗退......サヨナラ弾を見上げた神谷は、当時をこう振り返った。

「僕はサードを守っていたんですけど、打った瞬間、レフトにポーンと上がったボールが跳ね返ってきたんです。だからツーベースなのかなと思っていたら審判が手を回していたので、ああ、負けたんだな、と思って......それからゆっくり歩いて、整列して、挨拶したときに、これで高校野球は終わったんだ、と思って......」

中学、高校のチームメイトである平良拳太郎に負けじとNPB入りを目指す神谷塁中学、高校のチームメイトである平良拳太郎に負けじとNPB入りを目指す神谷塁 中学時代、沖縄県代表として全国で3位になった。その年、甲子園では興南が春夏連覇を果たしていた。沖縄で勝てば全国でも十分に戦えるということを、神谷は身をもって体感していた。

 高校では3年の夏を第1シードで戦った。甲子園は近づいたはずだった。しかもチームメイトだった平良がプロから高い評価を受け、ドラフト5位でジャイアンツから指名された。神谷がプロへの距離をさほど遠く感じなかったとしても無理はない。高校を卒業して地元の社会人チームに入ったものの、沖縄ではNPBのスカウトの目に留まるチャンスが少ないと、独立リーグ入りを希望。社会人時代の先輩のつてを頼って、去年、沖縄から石川へやってきた。

「野球を始めた頃からいつかNPBでやりたいという気持ちはあったんですけど、そのためには沖縄で野球をしていたら目立たないと思ったんです。高校から同級生の平良がプロに行ったことも、いつか自分もああいうふうに周りから認められるヒーローになりたいなって、刺激になってました。

 だいたい、アイツ(平良)、スカしてるんですよ。女の子にもあんまり興味なくて、ホントに野球だけって感じだったんで、高校時代からイケ好かんヤツだなぁと思ってました(笑)。今は、『お前、見とけよ』と思いながらアイツの存在をエネルギーにして、やってます」

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