ライバルが見た荒木大輔の早実は
「何かに守られているように強かった」

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • 岡沢克郎●写真 photo by Okazawa Katsuro

 東京での彼らは"目には見えない何か"に守られているような感じがしました。「技術だけでは早実を倒せない。実力、技術以上の何かがないと難しい」と。伝統、球場の空気、メディアの力、世間の期待......。僕たちにはなく、彼らにあるものがたくさんあって、それが勝敗に影響したような気がします。

 最近では、清宮幸太郎(現北海道日本ハムファイターズ)がいた早実にもそういう雰囲気がありましたが、大輔のときとは比べものになりません。清宮くんが1年生の秋に二松学舎と対戦したときは、大江竜聖(現読売ジャイアンツ)が抑えて、早実にサヨナラ負け。その試合後に、「荒木大輔がいた早実だったからこそ、どの高校も勝てなかったのかもしれない」とも思いました。

 当時の早実を包みこむような独特な空気を、選手たちは重荷に感じることなく、いい部分だけを力にしているように感じました。選手全員が野球をよく知っていて、とにかくスマート。伝統校にありがちな「OBに怒られるからやらないと」というストレスもなさそうでした。

 40年近く前の高校野球は、今とはちょっと雰囲気が違っていました。大会関係者から「騒ぐな」と怒られても、飛び跳ねたりガッツポーズをしたりする選手が多かったし、見た目にも大きな差があって、ヒゲを生やしている選手もいましたね。あの頃の野球は、「悪ガキがやるスポーツだった」とも言えるかしれません。

 どの高校の監督も怖くて、厳しい上下関係がありました。そういう意味で、早実には少し違った空気があったのかもしれない。一方で、彼らには練習試合ですら負けられないプレッシャーがあって、僕らにはわからない苦労もあったはずです。それを跳ねのけて甲子園に連続出場を果たしたわけですから大したものですよ。

 特に、大輔があれだけ騒がれ続ける中で平常心を保つことは大変だったでしょうね。チームの中に突出してメディアに取り上げられる選手がいると、周囲は気を使うし、白けた雰囲気になることもある。やっかみや嫉妬があってもおかしくない。大輔自身が気づいていたかはわかりませんが、指揮を執っていた和田明監督が、いろいろとご苦労されたことは想像できます。

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