「浜高の野球で勝て」。兄の想いを胸に、
和田毅の弟が古豪復活に挑む

  • 井上幸太●文・写真 text&photo by Inoue Kota

「県西部に限らず、島根県全体に言えることですが、野球をやっている子どもが減っている。そういった状況のなかで、中学生が『浜高に行きたいな』と思える環境をつくらないといけないと感じています」
 
 高校野球の指導者として10年目を迎えるが、年を追うごとに「野球の難しさ」を噛みしめているという。

「難しい『すごろく』をやっているような感覚で。3歩ぐらい進んだかな......と思うと1歩下がってしまう。やればやるほどわからなくなっているような気もしますね」

 苦笑いにも近い笑みを浮かべながら、自身の10年間を振り返る。

「『野球がわかった』というような知ったかぶりは絶対にしたくない。でも、いろいろな方の話を聞いたり、自分が指導の現場で実践し、経験を蓄えていくなかで『これが基本なのかな』というものは少しずつ、本当に少しずつですけど、見えてきたかなという感覚もあります」

 この10年間、自身が指導するなかで明確に甲子園を意識できるチームがあった。前任の松江商高での最後の年となった2015年のチームだ。遜色ない実力を持つ右投手2枚が揃う投手陣、攻守に類いまれなる能力を見せる正捕手、控え選手ながらも抜群のキャプテンシーでチームを牽引し、指揮官として全幅の信頼の置けるキャプテン。自身の指導歴のなかで最も「全国」に近いと思えるチームだった。

 現に春はその実力を遺憾なく発揮し、県大会優勝。決勝で自身の高校時代の監督でもあり、「尊敬する存在です」という新田均が率いる島根中央高を下しての県制覇だった。しかし、満を持して臨んだ夏の大会はノーシード校に敗れてまさかの初戦敗退。練習試合を通じても抜群の安定感を見せていたエースが序盤に大量失点を喫しての敗戦だった。

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