広陵・中村奨成に「本当の仕事」をさせず。花咲徳栄は魔物を知っていた (4ページ目)

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 だが、中村は清水の144キロ速球をとらえた。打球は三遊間へのゴロ。西川の肩の状態、吉岡の初回の反省から、抜ければ確実に1点だったが、この打球をサードの高井悠太郎が横っ飛びで止めた。内野安打にはなったが、外野に抜けさせなかったことで得点は許さない。またしても、中村に打点をつけさせなかった。

「抜かれたら1点。後半を考えると少しでも失点は少ない方がいい。アウトにしたかったけど、抜けなかっただけでよかった」(高井)

 記録はサード内野安打だが、それだけでは表せないビッグプレー。実は、これは守備位置のファインプレーでもあった。花咲徳栄の村上直心部長は言う。

「中村君については『逃げずに攻めていけ。打たれてもしょうがない』と言っていました。ただ、彼は引っ張って強い打球が来る。試合中も、監督から三遊間の2人には何回も『深く守れ』という指示が出ていました」

 いつもより、深めの守備位置にしたことでダイビングが届いた。グラブに当たったのだ。ここも好機は広がったが、後続はダブルプレーと三振に倒れ、中村の一打からビッグイニングという流れにはならなかった。この直後、徳栄が6回表に4点を追加した時点で、実質的に勝負は決した。

 ホームランバッターの中村の役割は"還す人"だ。さらに、チームの誰もが信頼するナンバーワン打者。だからこそ、中村の一打で挙げる得点は数字以上の意味を持ち、味方に勇気と勢いを与える。だが、この試合は"還す人"ではなく、チャンスメークの"出る人"にしかなれなかった。つまり、花咲徳栄は中村に仕事をさせなかったのだ。

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