広陵・中村奨成に「本当の仕事」をさせず。花咲徳栄は魔物を知っていた (3ページ目)

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

「いけると思ったんですけど。ボールが見えたとき、ボールが近くにある感じがしたんです。西川の肩のことは知っていて、狙ってたんですけど、慎重にいきすぎました。(三塁コーチャーの)声は聞こえていたんですけど、判断ミスでした。悔いが残ります」

 中村の二塁打で一死二、三塁と好機は広がったが、4番、5番が倒れて無得点。まだ初回だったが、広陵にとってはチームの雰囲気を大きく変えるチャンスを逸した。永井は言う。

「相手に先制されただけじゃなくて、点の入れられ方が明らかにいつもとは違った。いつもなら止まるのに止まらない(1番からの3連打で2失点)。あれを見て、『今日は違うな』と思いました。試合前の雰囲気はいつも通りだったんですけど、試合に入ってから変わっていった。誰も口に出さなかったですけど、みんなそう思ったと思います。それが、だんだん焦りに変わっていった」

 いつもとは違うことを表す象徴が、初回の走塁だった。吉岡に「決勝だから?」と尋ねると、隠すことなく、こう言った。

「はい。攻めきれませんでした」

 だが、勝利の女神はまだ広陵を見捨てない。5回裏にもう一度チャンスがやってきた。5回表に6失点して得点は2対10と大きく離れていたが、今大会はどれだけ点差があっても、ビッグイニングで一気に追い上げる試合がいくつもあった。ここでスターの一打が出れば、球場が再びその雰囲気になる可能性は大いにある。

 無死一塁から吉岡の二塁打で1点返し、無死二塁で中村が打席に入った。ここで花咲徳栄・岩井隆監督は先発の綱脇慧に代え、最速150キロのリリーフエース・清水達也をマウンドに送って流れを止めにかかる。

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